お願いされたことを「ダメなの、できないの」と断るときには、シコリが残らないように、なるべく明るい雰囲気をつくりたい。そのためには、まずは相手の話の途中で「そんな面倒なこと、迷惑なのよ」といった態度を表に出したり、もののいい方をしたりしないことである。
相手も困ったことがあって助けを求めてきている。あなたなら「どうにかしてくれる」と見込んで。それをいきなり「どうして、ここにきた」みたいな態度を取られたら、裏切られたような気持ちになるだろうし、禍根(かこん)が残る。
まず誠心誠意、話を聞いて、「期待に応えられなくて、ほんとうに申し訳ありません」という気持ちを伝えることである。
もちろんノーといわなければならない理由も、相手は「それじゃあ、仕方ない」と納得できる話し方で、しっかり説明することも大切だ。
ちなみに明るい雰囲気でとはいいながら、笑いながら「ダメよ」というのは、相手をからかっているような雰囲気になって、これはこれでシコリを残すことにもなりそうだ。
笑顔を見せるのであれば、申し訳ないという顔をしてから、
「何かあったら、またきてね。今度は期待に応えられるかもしれないから」の、ひと言をつけ加えるときのことだ。
【話し方のツボ】迷惑そうな顔をしない。ノーで、雰囲気が暗くならないようにする。
①むっつりした顔で「ダメ」ではなく、明るく「今回はダメだけど、またきてね」という。
②ざまあみろといった態度で「ダメ」ではなく、申し訳ない様子で「ごめん」という。
③断ってそのまま知らぬ顔をしているのではなく、「その後、どう」とフォローを入れる。
④「私はダメ」で終わるのではなく、「だれだれに頼んでみたら」とアドバイスしてみよう。
32「みんな」の使い方を間違えると、反感を買うことがある
「生ゴミを出す日は月曜日と木曜日です。それ以外の日に生ゴミを出さないでください。あなたがルール違反をするから、みんな迷惑しているんです。」
「それにしても、あなたは字がきたないなあ。もう少し丁寧に書けないの。あなたの書く報告書は読めたものじゃないって、みんな、そういっているよ」
…この「みんな迷惑している」「みんな、そういっている」といういい方は、説得の仕方としては非常に効果的だが、相手の心に「何よ、偉そうないい方をして!」と強いシコリを残しやすい話し方でもある。
よけいなひと言、ともいえる。本来なら、「しないでください」「反省してほしい」
だけでいいのだが、そこに「みんなが」という言葉を使うことによって、相手にプレッシャーをかけることになる。だから効果的、ということなのだが、相手はこちらの言い分を受け入れつつも、心の中では恨んでいることも多い。
「みんな、あなたのことをほめていた」「あなたのおかげで、みんな喜んでいました」といういい方は、いい。しかし否定的なことをいわれるとき、「みんな」は心に重たくのしかかる。
強い薬ほど、副作用が強い。言葉にも、使い方がよければ効果的だが、使い方を間違えると強い副作用が出るものがある。
【話し方のツボ】「みんないっている」で、「強要するのはやめる」。
①「みんなが迷惑しているんです」ではなく、「やめてください」だけでいい。
②「みんながいっています」ではなく、ひと言「改めてください。お願いします」と。
③「みんなほめているよ」はいいが、「みんな非難しているよ」はダメ。シコリを残すだけ。
④「みんな」といって、自分だけのわがままを通そうとする人もいる。
33「やめなさい」で反発し、たとえ話で納得する
「あれをやってほしい」というときの話し方もむずかしいが、「あれをやってはいけない」という話し方も同様だ。高圧的に「ダメだ」「やるな」「やめろ」では、反発心をつのってしまう。「やめてやるものか。これがオレのやり方だ」と、かえって相手をかたくなにしてしまうこともある。
そこで役に立つのが、たとえ話である。若手の俳優があるテレビドラマに出演したのがきっかけとなって、急に人気が出てきた。ドラマ出演のほかにもコマーシャルや、バラエティー番組の出演、イベントへの参加など様々な仕事が飛び込んできて大忙しになった。その様子を見て、以前から彼の才能を見抜いてかわいがってきたプロデューサーが心配になった。忙しくなるのはいいが、自分を切り売りするような仕事のやり方のために、せっかくの俳優としての才能を台無しにしてしまうのではないか、と。
そこでプロデューサーは彼に会って、かつて自分のつき合ってきた俳優の中に、人気が出たことに慢心して勉強を怠ってみずからつぶれていった俳優が何人かいたという話をした。直接、「あなたの、いまの仕事を改めよ」という話はしなかったのだが、
その俳優は、「これは自分のことをいっているのだな」とすぐに気づいて反省し、本業以外の仕事をセーブするようになったという。
相手の自尊心を傷つけないためにも、たとえ話が役に立つ。
【話し方のツボ】「やめなさい」という気持ちを伝える、たとえ話をしてみよう。
①「やめなさい」でむりやりやめさせるのではなく、たとえ話で自覚させる話し方を。
②「やめろ」といわれると、やめたくなくなるのが人の心。いい方を工夫してみよう。
③人からむりやり強要されるよりも、みずから自覚するほうが、その人のためになる。
④相手のプライドを踏みにじる忠告の仕方ではなく、プライドを尊重しながら忠告する。
34「苦いクスリは飲みやすく」、忠告にはほめ言葉を添える
人に行動や習慣を改めさせるときには、ひと言ほめてから、というのがコツである。
デスクの上がいつも散らかっていつ部下に「もっと整理整頓に気を遣え。いつもいっているだろう」と怒鳴りたくなる気持ちはわかるが、「あなたは馬力があるし、仕事もできる。けれど、その散らかり放題の机には感心しないなあ。いまのあなたに整理能力が身につけば、鬼に金棒なんだけどなあ」という話し方のほうが、ずっと効果的だ。
恋人のファッションセンスが悪い。暗い色調の服ばかり着ていることを改めてもらうために「その服、君には似合わないよ」といういい方もあるのだろうが、「君の笑顔は、とてもステキだよ。」そのステキな笑顔には、もっと明るい色調の服のほうが似合うと思うよ」というほうが、恋人もその気になるし、効果的だろう。
ほめ言葉は、人の心を柔らかくする。柔らかくなった心のほうが、人のアドバイスを受け入れやすいから、まずは、ほめてから、なのだ。
苦いクスリはオブラートに包んで飲むと、飲み込みやすくなる。シビアな忠告は、ほめ言葉というオブラートに包んでからということだ。
これで相手は「そういわれてみれば、そうよねぇ」と、すなおにうなずいてくれる。
苦いクスリのままでは、吐き出されてしまう。
【話し方のツボ】行動や習慣を改めさせる忠告をするときには、ひと言ほめてから。
①ほめ言葉は、心を柔らかくする。柔らかい心のほうが、人の忠告を受け入れやすい。
②ほめ言葉で誘導せよ、ただの忠告では反抗されるだけ。
③「だからダメなんだ」ではなく、「こうすれば、もっとステキ」という話し方がいい。
④「もっとステキ」で相手はその気になり、「だからダメ」でほんとうのダメ人間になる。