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button-only@2x 「あとで心配すればいいこと」と、「いま心配しなければならないこと」を見極める

こんなふうにマイナス思考とじっくり向き合うと、”心配性さん”も「できっこない」と引く気持ちを克服することができるのだが、待ったなしで返事を求められると困ってしまうことが多いだろう。

上司から何か大仕事を頼まれたとき、つい「私ごときにはとても…」とか、「あまり自信がないので…」「すこし考えさせてもらいたいんですが…」と及び腰になってしまうようなことはよくある。

そんなとき”心配性さん”の頭に渦巻くのは、先の心配事ばかり。心配の正体を明らかにして分析している暇がないから、マイナス思考から逃れられないのだ。ひどい人になると、予想される困難を逐一並べ上げることもある。

仕事を依頼する立場の人は、あなたを見込んでお願いしたのだから、やる気が見えないとイヤな気分になるものだ。あなたの心配性が伝染して、その人までも、「人選を間違えたか」と不安になってくるからだ。

これで損をしたのが、外食チェーンの会社で働く俊彦さん(30歳)である。彼はあるとき、本部の上司に呼ばれて、「今度、新店舗がオープンするんだが、君に店長をやってもらえないかと思ってね。どうだい、やる気はあるかい?」と尋ねられた。

ところが、心配の俊彦さんは降って湧いたような昇進話に、「え?」と絶句したまま、固まってしまったのだ。やがて、頭の中を、

「まだ、経験も少ないし、できっこないよ。売り上げに一喜一憂するいまの店長は、あれだけのキャリアがあるのに、すごいたいへんそうじゃないか。おまけに新店舗がオープンするところは競合店がいっぱいあるみたいだし、太刀打ちできるかどうか…。」

というマイナス思考がぐるぐると回り始めた。ほんの一瞬のことだったが、俊彦さんの戸惑いと不安はそのまま上司に伝わった。そして、上司はあっさり、

「いや、ムリならいいんだよ。ほかの人を当たるから」

と前事を撤回したのである。

あわてたのは俊彦さんである。今度は「せっかくのチャンスを自分でフイにするなんて、意気地のないヤツだと思われる」と心配になり、「いえ、突然の話でビックリしただけです。すこし考えさせてください」とすがったのだが、ときすでに遅し。上司は「考えさせて」にまたまたカチンときたらしく、「聞かなかったことにしてくれたまえ」と去っていったという。

いささか気の短い上司だと思うが、世の中にはこういう、相手のやる気を評価の第一に置くタイプの人がたくさんいるものだ。

「結局、僕より若い社員が新店長に抜擢されました。あとで聞いた話によると、彼は三番手の候補者だったそうですが、本部の上司が『いい話なんだが、君に打診しておきたい仕事があってね』と言ったとたんに、もうロクに内容も聞かずに『はい、やります。がんばります』といったそうです。

やられたな、と思いました。失敗して評価が下がるのを恐れた僕は、尻込みしたために”何もしないうちに評価を下げた”わけです」

俊彦さんはこの経験を通して、「先のことをあれこれと心配するのは、仕事を受けた後でよい」ことを学んだのである。いささか高い代償だったけれど、反省点は次のチャンスで生かせるだろうと思う。

”心配性さん”は大事にすると、自分を守ることに汲々としがちなので、どうしても自分で自分の足を引っ張るような行動をとりがちだ。それでは、物事をうまく運ぶ部分でいい方向に作用するせっかくの心配性も台なしである。

「できっこないよ」とおじ気づくような物事に直面したときは、「心配するのはあとにして」と胸の内でつぶやき、「はい、やります」と前向きな姿勢を示すべきだろう。

自分の背中をポンと押してやることができる。

ノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士でさえ、「自分の能力は自分で使ってみなければわからない」と言っている。

「できる」「できない」は、やってみて初めてわかるものだ。「やってみる」と決めたあとに、大いに心配するのが、順番としては妥当だと思う。

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「人づきあいが苦手…」をどう乗り越えるか

▽心配性の人ほど人に好かれる–その理由

”心配性さん”の中には、「人づきあいが苦手」という人も少なくないと思う。とくに初対面の人や苦手な人に会うとなると、「自分は受け入れてもらえないのではないか」「いい人間関係が築けないかもしれない」と心配になる。

心配が高じて、「明日、あの人に会う」と思っただけで緊張して、心臓がドキドキして、「夜も眠れない」ほど悩まされることもあるだろう。

それは、悪いことではない。心配する気持ちの裏には、「仲良くなりたい」という強い欲望があるからだ。

対人心理学では、「人と仲良くしたい」という気持ちは「親和欲求」と呼ばれ、心配性の人はこの「親和欲求」が強いと言われている。

このことは、人が何かコワイことや不安を感じるようなことがあるとき、一人でいることが心配だから、「誰かといっしょにいたい」と思う気持ちが強くなることを考えると、とてもわかりやすい。

つまり”心配性さん”は、しょっちゅう不安な思いを抱いているから、自然と「親和欲求」が高まるということだ。

したがって人一倍、家族や友人をたいせつにする優しさもあるし、人間関係を何よりも重視して振る舞おうとする。

ではなぜ、人づき合いが苦手になってしまうのだろう?答えは簡単だ。自分の

「人と仲良くなりたい」というほんとうの気持ちを認識していないからである。

人と会うまえに考えることと言えば、「相手に嫌われたらどうしよう」「相手があまりしゃべってくれなかったらどうしよう」「相手の機嫌を損ねたらどうしよう」という相手のことばかり。自分の気持ちを外に追いやってしまうから、言動がぎこちなくなり、心配した通りの結果を招いてしまうことになる。

どうせ心配するのなら、「私はあの人と仲良くなりたい。どうすればその気持ちを」表現できるだろう」という視点から悩むことが重要である。結果がまるで違ってくる。

▽私が使っている「緊張緩和法」を紹介します

その際、最大のポイントとなるのは、出会った瞬間に相手の目を見て、ニコっと笑うことだ。「そんな単純なことで…」と苦笑するかもしれないが、予想以上にいい結果を生む。誰だって、「嫌われるんじゃないか」と相手を警戒するような顔で対面されるより、「仲良くしようよ」という気持ちを込めた満面の笑顔で迎えられたほうが、いい気分になれるものなのだ。

人と会うとき、心配なのは自分だけではない。相手だって、あなたがどんな人なのか心配している。そんな心配と心配がぶつかり合うところに、親愛の情は生まれにくい。だからこそ、自分から笑顔で「あなたを受け容れますよ」というサインを送る。

そのほうが相手に「私を受け容れて」と期待するだけでいいのだから、相手の心をコントールしようとするよりもずっと簡単ではないだろうか。

こういう笑顔を身につけると、人が大勢集まるパーティーなどでも緊張を軽減することができる。「さまざまな人と打ち解けられるだろうかと心配だけど、私は友だちをたくさんつくりたい。できるだけたくさんの人と笑顔で挨拶しよう」と思うだけでいいのである。笑顔が、初対面にありがちな緊迫した雰囲気の”緩和剤”になってくれるはずだ。

もっとも、日本人は総じ」てシャイなので、パーティーのような場にかぎらず、笑顔を向けても「スーッと視線をそらす」ような人も多いだろう。”心配性さん”は、そこまで心配するかもしれない。

しかし、そんなときももう一度、意識して「私は仲良くなりたい」ことを思い出すしかない。視線をそらせた相手は「なんだか悪いことをした」という気分になるものなので、懲りずに二度、三度と笑顔を送れば、どんなシャイで閉鎖的な人でもそのうち、頑なな気持ちがとけていくに違いない。

さらに笑顔には、自分の心を楽しくさせる効用がある。アメリカの実践心理学者であるウィリアム。ジェームズが「楽しいから笑うのではない。笑うから楽しいのだ」

と提唱しているように、笑えば人づき合いも楽しくなってくる。

私も人と会うときはつねに笑顔を心がけている。正直言って、昔はパーティーに出かけてたくさんの初対面の人と会ったり、何かの打ち合わせで苦手な人と会ったりするすることに、「気が合わないとイヤだなぁ」などと心配することもあった。

でも、その場に行って笑顔で接すれば、けっして予想したような悪い結果にはならないことを、経験的に学んだ。顔立ちのおかげもあるが、笑顔をいい第一印象につながったのだと思う。

逆に、相手から勉強させられたこともある。まったく知らない人から笑顔で挨拶され、ついでに握手までされるようなときは、ちょっぴり気恥ずかしいような気持ちにはなるものの、不思議と相手に対して親愛の情が湧いてくる。「これはいい」と、私もときどき、握手を人づき合いの”緊張緩和剤”として使わせていただいている。みなさんにもぜひ、人づき合いにかかわる心配を笑顔に変えて表現してみていただきたい。