さらに理想を言うと、可能な限り、「もし…思考」はヤメにすることだ。そうすれば、得体の知れない仮想現実や、動かしようのない事実の前に身がすくむことがなくなる。
心配事が生じたら、何も考えずに「私はきっと、うまくいく」、そう自分に言い聞かせてみてはいかがだろう。心配事に対して冷静になれるし、行動する元気も湧いてくるに違いない。
小さな会社に勤める知人は、「とくに厳しい現実が待ち受けているようなとき、仮定で物事を考えないほうがいいと学びました」と語っていた。彼はあるとき、外部のスタッフに、ギャラの二割カットを申し渡さなくてはいけないキツイ仕事を命ぜられたそうだ。
「つき合いの長い方だったし、ここ何年も値上げなしで仕事をしていただいているのに、二割もカットするなんて申し訳なくて。でも、会社もこの不景気で業績が悪化した結果の苦肉の策だから、私の力ではどうにもならなかったんです。」
会ってその旨、お願いしたら、相手の方は『決まったことなら、ハイッて言うしかないもんね。ギャラアップする日が楽しみだね。いままで通り、いやそれ以上にがんばるよ』と。でも、つい『そんな日が来るとは思えないんですけど』と言ってしまったんです。
すると彼は即、『来るよ。ぜったいに来るよ。景気はよくなるよ。お宅の業績も上がるし、僕のギャラも上がるよ』と答えたんですよね。
すごいなと思いました。彼はこうして元気を保ってるんだって。『もし、景気がよくなったら』と思いが拭えませんが、言いきると仮想現実が現実になるんですよね」
前向きな外部スタッフの刺激を受けた彼はいま、「もし…思考」が頭をもたげてきそうになると、意識して「ぜったいにうまくいく」と心に念じたうえで、「さて、心配なことにどう対応していこうかな」と考えるようになったそうだ。
「もし…思考」をなくすと、心配してクヨクヨする気持ちが吹き飛び、心と体が元気になる。だから、「心配のタネ」と前向きに取り組むことが可能になり、ツキまでも呼び込むのである。
▽「失敗したらそのときははそのとき」で強くなれる
かなりまえに、若い人から『ぼのぼの』という漫画の一話に、とても感銘したという話を聞いた。なかなか示唆深い話だった。
その漫画の主人公は「ぼのぼの」という名前のラッコの子供だそうだ。彼が大好物の貝を三つ抱えて、「二個食べたいけど、いま二個食べるとあとで困ることになる」と大いに悩んでいるところへ、いじめっ子のアライグマくんがやってきて、こう言った。
「どうして、あとで困ることを、いま困るの?」
貝の数と台詞は正確ではないけれど、だいたいこんな感じで、アライグマくんと何度も何度もしつこく「どうして、後で困ることを、いま困るの?」と言い続け、答えに窮したぼのぼのが、汗の粒一粒、二粒、三粒…と流すシーンが展開するらしい。
私たちはよく、「いま、これをやっておかないと後で困るから」と心配する。それはいい。「あとで困る」とわかっていれば、いま何をなすべきかが明確にわかるから行動できる。しかし、偶然と「あとで困ったことになるかもしれないし、ならないかもしれない」ようなときは、「あとで困ればいい」場合も多い。
たとえば、あなたが二か月後に休憩をとって一週間ほど旅行をする計画を立てたとしよう。”心配性さん”の胸の中ではおそらく、
「二か月後に予定外の仕事がはいって、忙しくなったらどうしよう。せっかく取った休憩をフイにしなければならないかもしれない。旅行を楽しみにしている家族に何と言えばいいのか、困ってしまうなぁ。
体調を崩したら、どうしよう。キャンセルがきかない時期だと損をするし、私も旅行に行けないのと体調不良と、二重苦になる。困ったなぁ。
予定通り旅行に行けたとしても、雨が降ったら台なしだ。子供と海水浴を楽しむつもりなのに、何もすることがなくなってしまう。困るなぁ。
思った以上に散在したら、どうしよう。また貯金をなし崩しにしなくちゃならない。これから物入りだというのに、困るなぁ」
といった具合に、さまざまな心配事が胸を去来するだろう。
しかし言うまでもなく、これらの心配事は起きてしまってから、「後で困ればいい」ことばかりである。アライグマくんの言うように、いま困っても意味はない。
こんなふうに正確に予測できない先のことを考え始めたときは、声に出して「あとで困ろう」と言ってみるのはいかがだろう。
この一言できっと、脳の中をぐるぐる回っていた心配事は「出番はまだね」とばかりに、”楽屋”へ引き揚げるに違いない。
『ぼのぼの』の話を私に教えてくれた男性も、先の見えない不安が生じたとき、「あとで困ろう」とつぶやいているそうだ。彼は胸を張って言う。
「たとえば、会議でプレゼンテーションをするまえなど、意地悪な質問が出るかな、聞いてもらえるかな、評価してもらえるかな、などと考える不安でしょうがなかったのですが、いまは大丈夫。心配事が沸き上がりそうになったらすぐに、『どうなるかわからないことで悩みっこなし。後で困ろう。それより、いまは準備に集中!』とつぶやきます。
片思いの彼女にデートを申し込んだときもそう。『断られたどうするかは、そのときのこと。あとで困ることにして、いまはお誘いの台詞とデートプランのことだけ』と自分に言い聞かせました。
後で困ろう思うと、心配事がどこかに去って、いまに集中できるんですよ。いままでクヨクヨして過ごしていた時期を、ずっと有効に使えるようになりました。
もちろん、ほんとうに『あとで困る』こともありますが、そのときには、一生懸命に困るだけ。『あとで困ろう』と決めているからか、困りながらも不思議と気持ちは冷静です。あれこれ心配していたときのほうがむしろ、あわてていました。いまでは僕、アライグマくんを尊敬していますよ」
なるほど、なかなかの効果がありそうだ。心配にも”旬”があるということか。
「いま困ってもしょうがないことは、あとで困る」、こう決めるのも心配性撃退法の一つと言えるだろう。