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もちろん、この種の制度を導入していない企業のほうが格段に多いことは承知している。しかし、前にお話しした「目標探し」との違いは、会社の援助があるか、ないかだけ。制度がなくても、新しい仕事を見つけてちょっとしたFA宣言をすることは可能だし、自主的なプロジェクトを立ち上げることもできる。

たとえば、車のセールスをしている幸夫さん「36歳」は、二年ほどまえにセールスの仕事にイヤな気がさしてきたのだが、あるときふと、

「セールストークを繰り返しているだけだから、面白くないんだ。顧客だって、セールスはウンザリっていう顔をしてる。『いい車をありがとう』と喜んでもらうことが、僕の仕事の目的なのに、これではよくないな。

でも、セールストーク以外にどんな話をすれば、笑顔をもらえるだろう。顧客はみんな車好きだから…、そうだ、車に関する雑学めいたネタを披露してみようか。さっそく、ネタ帳づくりを始めてみるか。新鮮な仕事だから、なんだかワクワクするな」

と考えた。そして、「一人の顧客につき一つの雑学を披露する」ことを目標に、「一人ネタ帳プロジェクト」を始動されたのだ。

幸夫さんは暇を見つけては、インターネットを検索したり、映画や小説から車のある風景を探したい、町で通る車の”定点観測”をしてみたり、情報収集に走るようになった。

こうしてデーターを蓄積したネタ帳には、車の最新ニュースはもちろん、製造方法や販売ルート、語源などの基礎知識、車にまつわる有名人のエピソードなどがいっぱい。顧客にも喜ばれ、自分にとっても楽しい新しい仕事となったそうである。

これだって、、会社から予算を得ることはできないけれども、立派なベンチャー事業である。幸夫さんのネタ帳社内でも有名で、最近になって「10センチ四方くらいの紙に印刷して、販売ツールにしようか」という話が持ち上がっているとか。

「あそこで腐らなくて、つくづくよかったなぁと思います。イヤイヤ仕事をすると、面白い仕事までがつまらなくなってしまう、それが心配だったから始めたことですが、見事にはまりました。顧客に対しても、『次はどのネタで驚かそう』と考えるのが楽しくて、訪問する足取りも軽くなります」

と、幸夫さん。話を聞いてみると、どうってことのない発想ながら、仕事というものはプラスアルファの新鮮味が加えると、ぐんと面白くなってる。自然と、嬉久として仕事に向かうようになるから、周囲の評価も業績もアップする。そう、「やる気が好環境をつくり出す」わけだ。

私も手帳に気に入った面白いジョークは書きとめておく。いいタイミングでそれが使えると一日気分がいい。ある喫茶店でウエイトレスに「コーヒーはブラックにしますか」と聞かれたので、「ほかにはどんな色のコーヒーがありますか」と聞いたら周囲が大笑いした。これも最近仕入れたジョークだ。

講演ではこんなバカ話からはいると、一気に聴衆の雰囲気が和む。ジョークは仕事にも役立つのだ。

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▽「生きる目標」を大げさに考え過ぎない

定年退職をするとか、子供が自立して家を出ていく、といった人生の節目に立つ中高年に多い心配が、「このままでいいのか。ただ長生きをして、可もなく不可もなしの人生が続くだけではないか」というものである。とくに男性に多く見受けられる。

ご婦人方はまぁまぁ、人生を楽しむ術を心得ておられるようだが、男性はそれまで仕事一筋に生きてきたせいか、どうもブキッチョで、すぐには頭を「エンジョイ・リタイアメント」に切り替えることができないらしい。

定年まであと二年という修司さん(63歳)も、「定年後の人生なんて、ちょっと考えただけで胸がドキドキしてくる」ほど心配している。

「趣味といっても、ゴルフくらいのもの。毎日、打ちっ放しに通って、たまにコースに出る程度の楽しみしか思いつかない。まだまだ先が長いというのに、そんな人生でいいわけはない。かといって、やりたいことの一つもない」

と肩を落としている。「人生80年、あと20年近くもあると思うと、気が遠くなる」と言うのだ。

恐らく会社勤めをしていたころは、さまざまな目標を持って仕事に取り組んでおられたのだろう。「仕事を落として社会に貢献する」ことに大きな「生きる意義」も見出してしたと思う。だから、定年によって「生きがい」が奪われるような気持ちになるわけだ。しかし私には、彼が「生きる目標」を大げさに考えすぎているように思えてならない。長く会社員人生を歩んできた習い性と言うべきか、何らかの「業績」に結びつかないと、目標にならないと決め込んでいるフシがある。

こういう人は、「業績」を「自分の幸せ」という言葉に置き換えるといい。人生の究極の目標は「幸せになる」ことに、よもや異論はあるまいと思う。その「自分の幸せ」という視点から目標を考えると、たくさんのやりたいことが出てくるはずだ。

やりたいことと言われて構えてしまうようなら、「好きなこと」と考えればいい。

私は修司さんにも、「ゴルフ以外にも何か、お好きなことがあるでしょう? これをやっているときが幸せ、というようなものが」とお尋ねした。そして、私の例の「橋の持ち上げ」のこともお話しして、「この程度の楽しさを感じられることでいいんですよ、考えてください」と宿題を出した。後日、修司さんは不安そうな顔をして私のところへ来て、こう言った。

「いろいろ考えたんですけれど、私が好きなことと言えば、風呂上りにビールをグイッと飲み、テレビで野球観戦をすることが一つ。あと、自分で言うのもなんですが仕事でいろんな料亭に行っているので、けっこう舌は肥えているほうです。うまい日本酒の盃を傾けつつ、おいしいものを食べるのは大好きですね。

それから、昔は落語が好きでした。時間がなくて挫折しましたが、古典落語の本を片っ端から読むと決めてがんばっていた時期もあります。犬も好きですね。ウチはペットで飼ってはいけないマンションなのでガマンしていますが。そうそう、NHKの大河ドラマとか演歌なんかも好きです。

でも、こんなことが好きでも、どう目標を立てればいいんだが…ムリでしょ?」