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button-only@2x 「何ができるか」より「何が楽しめるか」だ

修司さんは気づかないだけなのだ。ざっと好きなことを挙げてもらった中でも、私ならいくつもの目標を見つけることができる。

たとえば、野球を見ながら、自分なりのデーターをとることができる。解決者が持っているようなデータではなく、攻守が入れ替わるチェンジの時刻、選手別・客席に飛び込んだファウルの数等々。データがたまると、ひいきチームがどういう状況で勝つかが分析できて、ひじょうに面白そうだ。

また、飲み食いが好きなら、料亭の味の再現を目標に自分で料理に取り組むこともできるし、うまい日本酒の醸造元制覇を目指して旅を計画する…などということも可能だ。

このほか、古典落語は「挫折した夢よ、もう1度」の気持ちがあれば情熱は再燃するだろうし、『犬好きなのに飼えない』という欲求不満は朝の散歩でもして、”飼い主集会”にまぎれ込むことで晴らせる。

うまくいけば、「旅行のとき、犬の散歩をお願いできますか?」という話が舞い込んでくるかもしれない。

それに、大河ドラマや演歌は、究める価値のある奥の深い世界ではないか。歴史書をひもとくもよし、俳優や歌手のデータを集めるもよし、「大河の旅」や「演歌の旅」に出て紀行集をつくるのもよし、どうとでもやりようがある。

私がそんなふうにお話しすると、修司さんは「なんだか、定年が待ち遠しくなってきました」と顔を輝かせた。

「やることがない」と心配なら、その気持ちを「やることを探す」作業に向ける、たったそれだけのことなのである。

とるに足らないと感じられる趣味だって、一生懸命に取り組めば、世界が広がる。

人との交流も増える。

新しい仕事を発見することだって、ないとはかぎらない。

生きる幸福は、「好奇心」から生まれるのである。と同時に、人の価値を決めるのは「何ができるか」よりも「何が楽しめるか」ではないか。私はそう実感している。

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「自分には自信がない」と克服するためには?

▽いきなり「前向き人間」になる必要はない

何か大役が回ってきたり、難題をぶつけられたり、能力に余る仕事を任されたり、成果が期待されて緊張する場面に立たされたりしたときなどは、人は「自分にはできっこない。失敗して、イヤな思いをしそうだ」と心配になるものだ。

こういうときは本来、プラスのイメージを描いてテンションを高めていくのが理想である。たとえばアメリカでは、スポーツ選手に対するメンタルトレーニングに、

「試合を上手に戦い抜いて、チャンピオンになった自分をシュミレーションできたら、次はヒーローインタビューの練習だ」というメニューまであるらしい。「成功した自分」を思い描くことで、プレッシャーを「心地よい緊張」に変えようという試みである。

と同時に、イメージトレーニングには「こうなりたいという情報を脳にインプットできるので、その通りに脳が体に指示を出す」効果もあるようだ。なかなかメリットが大きいので、これができる人は、ぜひチャレンジしてほしいところだ。

しかし”心配性さん”には、、ちょっとむずかしいかもしれない。マイナスイメージから、なかなか抜け出せないからだ。いきなりプラス思考になれと言っても、そこでまた「自分にはできっこない」と頭を抱えてしまうのがオチだろう。

そういう人はプラス思考を身につけるまえに、まず「マイナス思考と上手につき合う」ことを、私はご提案したいと思う。これも物事をうまく運ぶ一つの方法だからだ。

▽ステップ1 心配、悩みの「種」を紙に書き出してみる。

心配性とどうつき合うか、そのポイントは第一に、何が心配なのかを明確にさせることにある。たとえば、あなたがいままで経験したことのない、「能力に余る」と思えるような大きな仕事を任されたとしよう。いくつか、心配のタネが出てくるはずだ。

「それをすべて、紙に書いてリストアップしてみる」といい。

心配なことというのは、頭の中で考えていても、漠然と広がってしまうだけ。無意識のうちにマイナス面を過大に考えることも多いので、具体的にして確認する必要がある。そこで、以下七つの心配のタネが出てきたとする。

①自分には、その仕事を立派にやり遂げる自信がない

②成果を上げるために、どう仕事を進めればいいかがわからない

③途中で挫折する恐れがある

④失敗したら、会社に迷惑をかける

⑤失敗したら、自分の評価が下がる

⑥失敗したら、自分のプライドが傷つき、ダメージを受ける恐れがある

⑦失敗したら、二度とチャンスは巡ってこないかもしれない

▽ステップ2 「何がどう心配なのか」もすべて書き出す

この時点で、心配事の”正体”が見えてくるので、気持ちはかなり冷静になってくるだろう。次にやるべきことは、それぞれの心配事に対して「なぜ、そう思うか」を考え、答えを書き出すことだ。

そうすれば、①~③については「やったことがない仕事だから不安になる」とか、④~⑦は「成果を問われる重要な仕事だから、失敗を恐れる気持ちが強くなる」といったことがわかってくる。ようするに、「やってみないとわからない」「結果が出なければわからない」ことに対して怯えている自分に、また心配の根拠がひじょうに希薄であることに気づくのだ。

▽ステップ3「別の考え方」ができないかを探してみる

これを認識したら、次は第3ステップ。「その心配事は、それほど心配するようなことかどうか」を考え、別の視点を見直す作業だ。各項目について、思考バターンの例を挙げてみよう。

①やったことがない仕事だから、自信がないのは当然とも言える。逆に、やり遂げれば、自信につながるということだ。そもそも自信というものは、経験の積み重ねで強化されていく。いま自分が難なくクリアしている仕事だって、最初から自信があったわけではない。自信がなくてモトモトだ。

②どう進めるかという計画も立てないうちから、「わからない」と心配するのは妙な話だ。成功というゴールに向かうプロセスを検討してから心配するのがスジだ。

自分の計画に自信が持てなければ、上司に相談する方法もある。

③自分は挫折したくない。ほんとうは、挫折の心配もしたくない。そんな心配をするより、仕事を途中で放りなげることのないように、どう行動すればいいかを考えるほうが先決だ。

④会社に迷惑をかけたくないが、この仕事を失敗したせいで会社の命運が左右されるようなこともない。自分一人の失敗で大きなダメージを受けるほど、会社は弱くない。それに、この仕事を自分にと決めたのは会社だ。失敗の責任は会社にもある。失敗の重圧を自分だけで背負い込むことはない。

⑤評価が下がるのはコワイが、現在の自分に対する評価がそんなに高いわけでもない。しかも、自分が仕事をする目的は、評価を上げることではなく、仕事そのものを成功させることにある。目的をはき違えているな。

⑥よくよく考えると、仕事で落ち込むことはしょっちゅうだし、自分のプライドが何なのかもよくわからない。そうなってからどうするか考えたって遅くない。

⑦「仏の顔も三度まで」という言葉がある。自分にとっては初めてのチャンスなのだから、「二度とチャンスが巡ってこない」と心配するのは少々大げさかもしれない。だいたい、チャンスが与えられるのを待つのは他力本願だ。自分が心配することではない。「どうチャンスをつかむか」を心配するのがスジだ。

どうだろう、「心配事なんて大したことはない」という気分になれるのではないだろうか。

ここまで来たら、仕上げは「心配する結果にならないように計画を立て、行動する」のみである。

これだけマイナス思考とつき合って熟慮を重ねれば、自分のなすべきことが具体的に見えてきて、その分、綿密な計画、慎重な行動につながる。「チャンスだ、がんばるぞ」とやみくもに突っ走る人よりずっといい仕事ができると私は思う。

こういう思考パターンを身につけると、物事を多角的に考える能力が磨かれるので、だんだんとプラス思考ができるようになる。

いま、プラス思考で大きな成功を収めている人でも、マイナス思考に傾く自分を強く意識している。だからこそ、物事を柔軟に捉えて、プラス思考になる努力をしているのだ。自分はマイナス思考だと心配する理由は、どこにもないのである。