たとえば「松井選手がホームランを打ちました」と報告すればすむことなのに、
「そのときの松井選手の心理状況は」とか「松井選手のホームランの特徴は」「松井選手の使っているバットは、だれそれが使っているものと同じメーカーのもので」とか
「その日の天候は、風の向きは」などと、いっしょに様々な解説もつけたがる、評論家みたいな人がいる。
本人は得意そうだが、聞いているほうは「わかった。もういいよ」といいたくなる。
相手は事実のみを知りたい。その事実をどう解釈するかは、相手が考えることで、よけいなことはいわないこと。それが、いい報告の仕方であると心得よう
解説めいたことを述べるのは「君は、どう思う」と相手から聞かれた場合にのみ、である。
世の中には、解説好きな人はいくらでもいる。驚くほど博識で、歩く雑学本とでも呼びたくなる人たちで、ジャンボジェット機の話にでもなれば、「翼にJAとか、GとかNとかアルファベットの文字があるでしょう。あれは何かわかる? あれは国籍を表す記号で、JAは日本、Gはイギリス…」と、果てることもなく話が続く。酒場などでは一日置かれる存在だが、仕事の場ではどうか。
「インターネットをビジネスチャンスにどう結び付けるか」などという話になれば、
あしたになっても続けていそうである。周りの人はもう帰りたいのだから、職場では歓迎されざる者になる。仕事上の報告は簡潔であればあるほどいい。
【話し方のツボ】
①知っていることを、すべて話すことはない。相手が必要としている情報のみを提供。
②多くを語ったからといって評価を受けるわけではない。多くを語らずで評価される。
③飲み屋ではいいが、仕事の場で、どうでもいい雑学的な知識をひけらかすのはやめよう。
④「ひと言でいう」ことを意識して報告業務を行う。報告の仕方がうまくなる。
56 苦労話や自慢話、言い訳は「報告」には不要
「うまくいきました」という報告をするのは、晴れがましいことだ。
しかし、「いやあ、たしかに苦労しましたよ。だって、そうでしょう。ほかの連中は、みんな気楽な人間ばっかりなものですから、結局ぼくがすべてやらなければならないことになるわけでしょう」と、これ見よがしに苦労話をされたのでは、「よくやった」といってやることがつらくなる。
(この件は、ぼくがいたからこそ、うまくいったんですよ。そこのところを、お忘れなく。だって、この件に関して一番精通しているのは、このぼくですからね。どうですか、僕を見直しましたか)という匂いが漂う報告には、うんざりする。
せっかく働きを評価し、ねぎらおうと思っているのに、それをよけいな苦労話や自慢話で台無しにしているのだからバカげたことだ。そんなことは、報告されなくてもわかっている。いわずもがなのことをいうのはマイナスだ。
「うまくいかなかった」ときの言い訳も、よけいなこと。「すみませんでした」と謝るのはいいが、「それはこういうわけで、ああいうわけで」と長々と言い訳を始める人には「わかったから、もういいよ」といいたくなる。
「うまくいかなかった」からといって、必ずしも信頼を失うものではない。その言い訳がましさが、人の信頼を失うこともよくある。
【話し方のツボ】評価される報告は苦労話や自慢話の入っていないもの。
①うまくいった苦労話をするのではなく、ありのままに報告しよう。信用される。
②うまくいった自慢話をするのではなく、たんたんと報告しよう。評価が高くなる。
③うまくいかなかった言い訳をするのではなく、ごまかさずに報告する。信頼される。
④報告の仕方で、仕事ができるかどうかの判断がつく。いい報告をしよう。
57 「報告する相手」を間違えれば、信用を失う
誰に報告するのか、これも簡単なようであんがいむずかしい。部長に報告を持っていったら、あとになって課長から「まずは、直属の上司である私に報告しろ」と叱られたといった話もよく聞く。
かといって、直属の上司にさえ報告しておけばいいというものでもない。関係する他部署に何もいっておかなかったために、「そういう話は、うちのほうへも話しておいてもらわなければ困ります」とクレームをつけられることもあるだろう。
ここには、共通した心理法則がある。「自分には報告があってしかるべき」と考えている人に報告がないと、その人は不機嫌になるということ。
「オレの息子は、母親には学校であったことをいろいろ話すくせに、父親であるオレには何もいってこない。なぜだ」と拗(す)ねているお父さんと同じ心理である。
そんなささいなことから「あいつは、私のことを内心では、軽く考えているのだな。バカにするんじゃないぞ」と、よけいな不信感を抱かれることに発展するのだから、人の心理というのはなかなかむずかしい。
組織の中で勝ち抜いてゆくためには、人の心理をよく知り、信頼を得ることである。
そのためには報告は、「これは、だれに話しておくべきか」をよく考えなければならない。たかが報告、されど報告である。
【話し方のツボ】これは「だれに報告しておくべきか」をちゃんと考えておこう。
①報告する相手を間違えると、とんでもない事態となる。要注意。
②直属の上司の頭越しにもっと偉い人に報告するのはダメ。まずは直属の上司に報告する。
③直属の上司に報告したからすべてOKではない。関係者にもちゃんと報告しておく。
④上司ばかりではなく、部下にもちゃんと報告する。以降の仕事がスムーズになるから。
58 相手が「知りたいこと」を的確に報告するポイント
人の話は、それを「報告する」ことを念頭において、聞いておくのがよい。
「きょうね、○○工務店さんから話があって、おたくは築30年だから、ところどころにガタがきている。そろそろリフォームをお考えになったら、だって。お安くしときますって、いってたわよ」「へえ、それでいくらでやってくれるって」「え? それは聞かなかった」では困る。
「これは、あとで夫に報告しなければ、相談しなければ」という気持ちがあれば、話の聞き方がもっと違ってくる。費用はもちろんのこと、リフォームするにしても、どこをどうするのか、工期はどのくらいかかるのかと、さらに具体的に聞き出しておかなければならなかったことが、はっきりしてくる。
人の話の聞き方には、「これを聞いておくほうがいい」というポイントがある。
①「何のためにするのか」②「何をするのか」③「どのようにするのか」④「だれがするのか」⑤「どこでするのか」⑥「費用はどのくらいかかるのか」⑦「いつまでにするのか」だ。
要は、この7つのことが、相手が「知りたいこと」なのであり、的確にその内容を相手に伝えるためのポイントにもなるだろう。
あらかじめ「報告する」ことを念頭においた、いい聞き方による、いい報告は、人との意思疎通を生む。人と人とが「理解し合う」ための基本だ。
【話し方のツボ】だれかに「報告する」ことを念頭に相手の話を聞く。
①何も考えずに報告するのではなく、何をどう報告するか考えてから報告する。
②「これはどうなの」と聞かれて慌てるのはダメ。質問を事前に想定しておく。
③ゆきあたりばったりの報告をするのではなく、ポイントをついた報告をする。
④自分の「いいたいこと」のみ報告するのではなく、相手が「知りたいこと」を報告する。
「意地」が話し方をむずかしくする。
テレビも見飽きたし、そろそろ部屋に戻って勉強でもしようかというところへ、「いつまでも怠けていないで、勉強しなさい。まったく何をやっているだか」という親の小言。そのひと言にムカっときて、「意地でも勉強なんてしてやるものか」。意地でもテレビを見続けてやる」と相成る。そんな経験が、みなさんにもあっただろう。
ゆえに、何かを「やれ」というときには、相手が意地にならないようないい方をしなければならぬ。「勉強しろ」ではなく、「テレビ、おもしろい?」「おもしろくない」「じゃあ勉強でもしてみたら?」「そうしようかな」という高度な駆け引きをしながらその気にさせる方法もある。
大切なのは、こちらも意地になって「しなければ許さない」と、相手が意地を張り出すきっかけを与えてはならないということ。ソフトな話し方で誘導する方法に効果がある。