Pocket

button-only@2x ▽まずは「いまの仕事」をどう面白くするか

外資系の保険会社で外国人役員の秘書を務める智代(30歳)。英語が堪能な彼女は、入社して五年ほどは仕事が面白くてしょうがなかった。得意の英語を駆使して仕事をすることが夢だったし、役員と接する中で勉強になることも多かった。ところが、一通りの仕事を覚えたころ、「このままでいいのかしら」という心配が、頭をよぎり始めたという。

「役員が新しい人に代わったこともあって、だんだんと仕事をするのが面倒になってきたんです。というのも、彼は初めての日本に興味津々で、何でもかんでも私に聞くからです。つい、『うっとうしいなぁ』と思いながら、テキトーに流しちゃうことが多くて、イライラを募らせていました。

それに、スケージュール管理とか主張の手配といった秘書業務にも手慣れてくるにつれて、『ただのパリシよね~』と自嘲的に考えるようにもなっていました。

いけない、いけないと思っても、なんか気力が出なくて、『私、ホンモノのダメ秘書になるわ』と心配になる一方で、『優秀な秘書だからって、明るい未来が開けるわけじゃない』という悲観的な考えにも悩まされました」

そんな智代さんを変えたのは、日本人役員の秘書をする後輩同僚の一言だった。彼女は羨望の眼差しをもって、「智代さんはM取締役にとって、日本のスポークスマンでもあるんですよね。いつも突っ込んだ質問をされててたいへんそうだけど、日本の文化や歴史、風習、世相なんかの勉強ができます。いいなぁ。日本の事情にうとい私も、外国人の秘書になったほうが必要に迫られて勉強するかも」と言ったのだ。

「そういう考え方もあるのかって目からウロコが落ちる思いでした。」たしかに後輩の言う通り、ボスの質問にちゃんと答えようと思ったら、私自身も勉強すべきことがたくさんあったんです。顔で笑って、心で反省して…後輩の顔を見て、複雑な気持ちでした。でも、私は、この後輩のおかげで、『ボスは私を通して日本を知るんだ』と改めて認識することができました。『日本について博学になる』という新しい目標を持てたんです。それからは、朝はちゃんと新聞を読んでから出勤し、暇を見つけては日本に関する本を読んだり、美術館や伝統行事に出かけていったり。すべて、仕事の一環として取り組んだことですが、知っているようで知らない日本を知る作業はとても楽しいものでした」

元気になった智代さんは、秘書仲間の目にも「カッコイイ!」と映った様子。やがて、「私もいっしょに勉強させて」という同僚が集まり、自然発生的に「日本を学ぶ会」という同好会が誕生した。

そして、智代さんを中心とするこのグループは現在、活動の幅をさらに広げているという。みんなで定期的に集まって、いろいろと話すうちに、

「今度、外部講師を招いた女性セミナーをやってみようか。女性が長く働くためには、家事・育児・介護と仕事を両立させるノウハウが必要でしょ。車内の女性社員も、呼びかければ参加してくれるんじゃないかな」

といった積極的な意見が飛び出すようになったわけだ。自主的な活動、これをやったから給料やポジションが上がるというものではないが、智代さんは「会社にいることががぜん楽しくなってきた」と張り切っている。

また、智代さんは仕事に積極的に向かうようになった結果、いまは秘書業務を「単調で事務的なパシリ仕事」だとは思っていない。一つひとつの仕事に対して、「経営陣ならどう判断するか」をシュミレーションしながら取り組んでいる。「秘書業務を通して会社経営に貢献する」という新しい目標を立てたことで、経営をサポートする面白さが生じ、やりがいが復活したそうだ。

「仕事に意義を見出したいまでは、『このままでいいのかしら』と心配するのではなく、『このままじゃダメ。進化しなくちゃ』と思えるようになりました。定年退職後も大丈夫、私には日本を勉強するという趣味がありますから」

胸を張る智代さんである。彼女のように、目標を持って行動することでできれば、物事はいい方向へと動きだす。現状に不満を募らせて「イヤだなぁ。将来は暗いなぁ」とイヤイヤ仕事をしていても、状況は何も変わらないのだ。

将来を考える第一歩は、新たな視点に立って目標を見つけ、現在の仕事が楽しくなる「心の環境」を整えることにある。

目標が見つかれば、何をすればいいかが見えてくる。そのほんのちょっと新しい仕事をすることが、マンネリ感を払拭するのである。

button-only@2x ▽まずは「いまの仕事」をどう面白くするか

▽未来は「能力」ではなく「やる気」で決まる!

最近の新聞で、「大リーグで活躍する松井選手のように、FA(フリー得ジョンと)」宣言をし、社内で希望の仕事をつかむ女性が増えている」という記事を読んだ。それによると、企業ではここ数年、企業内起業家を支援する社内公募制度や、社員が異動希望先を登録するFA制度といった人事制度を導入するところが増えているそうだ。たいへんけっこうなことである。こういう制度があれば、会社にいながらにして転職できるようなもの。不向きな仕事やマンネリ感に悩み、「このままでいいのか」と将来を心配する社員の方々にも、新しい活躍の場が得られる可能性が広がる。

これらの新人事制度に対して「能力と意欲を示す絶好の機会」と敏感に反応したのが、出産や育児などによるハンディを負いがちな女性たち。記事の中では、

「NTTドコモで法人向けの企業企画を担当していた32歳の女性が同僚と二人で、社内ベンチャー制度に応募。グルメ情報などを紹介する社員向けホームページの作成を事業化する案が採用され、資本金一億円(うち9700万円を会社が出資)の株式会社ドコモ・ためタンを立ち上げた」

「資生堂の千葉支社でトップクラスのセールスを上げていた33歳の女性が、『このままでいいのか』という思いと、モノづくりにかかわりたいという希望から、FA制度を利用して、六年まえに本社の商品開発部に異動。現在は男性用化粧品の開発に携わっている」

といった女性たちが紹介されていた。

つねづね、「近ごろの女性は元気だなぁ」と実感している私だが、かくもたくましくなったのかと、認識を新たにする思いだった。

それはさておき、厚生労働省の2004年雇用管理調査によると、従業員5000人以上の企業では7割以上が社内公募制度を導入しているという。また、FA制度についても、一割以上の企業が取り入れている(財団法人社会経済生産性本部調べ)そうだ。一部には、「裏を返せば、能力のない社員はいらないという厳しい制度」だと見る向きもあるようだが、能力主義が進む昨今、企業のこういう動きはいっそう広がることだろう。

これを厳しいと見るか、チャンスと捉えるかは、能力ではなく、「やる気」なのではないかと思う。希望を叶えるためには、会社を納得させられるだけの事業計画を練り上げる能力や、異動先から高い評価を得るだけの実績が必要とされるだろうが、そもそも「何を目的にどんなことをしたいのか」が明確でなければ何も始まらない。何よりも、「目的に向かって進む行動力」が求められるのだ。

自分で一から事業を立ち上げるのは、資金面で大変だ。それを会社が援助してくれるとは、もっけの幸いではないか。また、会社の采配一つに委ねられていた異動を自ら選択できるなんて、夢のような話だ。男性たちも女性に負けないよう、大いに行動力を発揮してほしいところである。