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button-only@2x 脳内に「火事場」をつくり出せ

イメージトレーニングで大きな成果を収めた一人に、短距離走の高野進選手がいる。彼の訓練はじつに徹底しているらしい。

走る行為は単純なようで、筋肉の動きは複雑微妙である。高野選手のイメージトレーニングでは、まず、筋肉の動きを細かく想像するという。もっとも速く走れる筋肉の動きを意識化しているのである。

さらに、実際に走っている間にも、二つの光景をイメージするという。

ひとつは筋肉の理想的な動きだ。もう一つは、最速で走る自分を客観的に見ているシーンである。走り終えて、理想のイメージと現実とのズレをチェックして、また走る。

これを繰り返すわけだ。寝る前には、ウォーミングアップから疾走後までの動き再度想像する。トラックの匂いや天候、雰囲気などが完全に思い浮かべられるようになるらしい。

こうすると、「失敗したらどうしよう」というネガティブな想像がいっさいわかなくなるという。

こうした徹底した訓練によって、たとえば手首の角度を変えると腕の振りが楽になる。、というようなひらめきがわいてくるのであろう。

   脳は自分のイメージ通りに指令を通達する

イメージが大事な理由は、脳のしくみにある。

脳にとっては、脳のなかを流れる情報だけが真実なのである。現実には間違った情報であっても、脳が信じれば、それは「事実」になるのだ。

前にもあげた「心頭滅却すれば火もまた涼し」の心境である。

想像妊娠も同様だ。脳が信じた非現実が、現実的にホルモン分泌を促し、生理が止まったりつわりが始まったりする。

自分が望む場面をことこまかに想像して、それをリアルに定着させると、脳がそのイメージに至るために必要なさまざまな情報を生み出し、考え、対処できるように回転するといえよう。

脳も筋肉も、ふだんの生活で100パーセントの力を出すことはまずない。だが、必死になると、「火事場のバカ力」といわれる信じられない能力を発揮する。

イメージトレーニングは、脳のなかに、いわば火事場をつくりだす訓練だといいえるかもしれない。

自律訓練法—脳がリラックスすれば、あらゆる可能性があふれる

シュルツが開発した自律訓練法も意識と無意識、体と脳の関係をうまく利用している。ふつうは、緊張や興奮を司る交感神経と、弛緩と鎮静をもたらす副交感神経が自然なバランスで働き、緊張とリラックスに長期間さらされたりすると、このバランスがくずれ、心身がリラックスできない状態になる。ひどくなると不眠や過食・食欲不振、登社。登校拒否などに陥ってしまう。

そこで、「両腕・両脚が重たい」「両腕・両脚が温かい」「心臓のリズムが規制正しい」「呼吸が楽だ」「おなかが温かい」「額が涼しい」という六段階の暗示を与えることで緊張状態を取り去るのが自律訓練法の骨子だ。

無意識の領域にリラックスしたイメージを与えることで、体や意識の状態を正常にするわけである。

   「人生80%主義」が最高健脳法になる理由

私の人生80パーセント主義が、手抜きのすすめでないことはもちろんである。やるべきときにやるべきことをやり遂げずに、人生が楽しくなるわけがない。

脳は快楽を求めているのである。

仕事や勉強、ストレスにはきちんと立ち向かはなくてはなるまい。それでこそドーパミンも分泌され、初めは苦痛だったことが快楽に感じられるようになる。

ただ、やり遂げれば、たとえ結果が100パーセントでなくても、鬱々とする必要もまたないのである。

脳にも体にも、働いたあとは休むことが、あるいは別の分野を働かせることが必要だ。脳をさんざん酷使したあと、「だめだ」とプレシャーをかけ続けるのは、能力を伸ばすうえでも得策ではない。

心理的にも同じことがいえる。完璧を求める態度は、自分にマイナスの自己暗示をかけることになるのである。

ビジネスでも生活でも、同様のことがあてはまるだろう。

   勝ちにかかった時、最も「魔が差しやすい」

よく、最後のつめが甘いという人がいる。理由の多くは、「勝ちを意識したとたんに固くなってしまった」ということらしい。

これは一種のマイナス暗示のためだ。

勝つことばかりに心が奪われると、「必ず勝たなければいけない」という義務感が先に立つ。裏返せば、「絶対に負けられない」という思いである。

これが無意識に「負けるかもしれない」というマイナスの自己暗示を生じさせることになるのである。

一人相撲をとるだけならまだいいが、仕事や交渉ごとには、相手がいる。「絶対に負かしてやる」と力むのは、逆に自分から相手に勝ちをゆずるのに等しいといえるのではあるまいか。

自分がパンを切って相手に取らせるくらいのゆとりが必要であろう。自分も利を得て相手も満足する「落としどころ」を探る作業が、ビジネスだとも思う。

一見難しそうな仕事や交渉も、自己暗示のワナに陥らなければ、どこかに必ず落としどころがあるものなのだ。

もっとも、上司から「絶対譲るな」などと厳命されては、身動きがとれない。上司が自分自身の葛藤を部下に押し付けているのかもしれぬ。すなおに「お力添えをお願いします」と言って同行してもらうのが賢明であろう。

    「語るに落ちる」失敗の深層心理

商談でも、いわゆる「売りにかかる」のは、いいやり方とは言い難い。相手に商品を購入するメリットを訴えようと思ったほうがいい。

結果にこだわりすぎると、商談が失敗に終わる恐怖がマイナスの自己暗示になって、言う必要のない消極的な話をついポロリとしてしまったりする。聞かれてもいない、商品のデメリットをわざわざあげつらい、「そんなことはありません」と否定したりする人の深層心理は、こういうことなのである。

結果にこだわりすぎると、商談が失敗に終わる恐怖がマイナスの自己暗示になって、いう必要のない消極的な話をついポロリとしてしまったりする。聞かれてもいない、商品のデメリットをわざわざあげつらい、「そんなことはありません」と否定したりする人の深層心理は、こういうことなのである。

結果に固執するより、目の前の目標を一つ一つクリアしていくことに力点をおく。

少しずつ歩いても、休まず歩けば目的地に到着するという楽観的な気分でいたほうがいい。仮に目前目標に失敗したとしても、それで最終目的までが消えてなくなるわけではないのである。

これで脳は無限の力を発揮する!

学生のころ、こんな経験をしたことはないだろうか。あるいは、こんな友人がいなかっただろうか勉強嫌いで、当然、成績はどの科目もパッとしない。ところがある時期、ちょっとしたきっかけから、特定の教科がおもしろくなってきた。その勉強だけはするようになる。

当然、その科目の成績は向上する。すると今度は、ほかの科目の点数も、、それまでほどには低迷しないようになった。

この例は、自分だけの得意分野をつくることの大切さを物語っているといえまいか。すなわち、自信をもつことの重要性だ。

自信は、プラスの自己暗示に直結する。

それまで自分がだめだと思い込んでいたのは、周囲の人たちから「頭が悪い、意志が弱い」などとみられていたからである。すると、当人は「そうか。ならしかたない」と強烈なマイナス自己暗示にかかってしまう。これでは、伸びる才能も伸びるはずがない。

ところが、得意科目ができるとマイナスの自己暗示が溶け、自分のなかに「やればできる」というプラスの自己暗示が生じてくる。眠っていた可能性や能力が花開くことになるのである。

このとき、脳に形質的な変化があったわけではあるまい。自信と自己暗示という心理的な変化が、脳の潜在力を開いたといえる。

  伸び続けるために必要な「人生のプラスアルファ」

この記事では、脳をどう刺激すれば能力が伸び、心がよい状態になるかを解明してきた。逆にいえば、日常のノウハウや心のもち方が、脳力向上にもっとも効率的に働くためにはどうすればよいかを考える作業でもあったわけである。

何でもそうだが、ハウツーだけでは進歩に限界があり、原理の解明だけでは速く進むことができない。両方のバランスがとれて初めて、生きるために本当に必要な力が生まれてくる。

この記事でつかんだやり方を、いい人生に活用していただきたい。