いったん叱り出すと、日頃から不満に思っていたことが爆発して、ついあれもこれもと止まらなくなる人がいる。
「報告書が誤字脱字だらけじゃないか」から始まって、「あなたには仕事に対する真剣さが足りないんだよ。誤字脱字だけじゃない。先月も目標の売り上げを達成できなかったし、今月も危なそうじゃないか。どうするんだ」ときて、「聞いた話だが、毎晩遅くまで飲み歩いているそうだな。職場では半分、眠っているんじゃないか。そんなことじゃ困るんだ」となる。
しかしこの、あれもこれもという叱り方は、叱られるほうに「どうせ自分は何をやってもダメな人間だよ。ああもう、やる気なくなっちゃうよなあ」という心理を起こさせるだけだから、逆効果になる。
人を叱るには、忍耐が必要だ。あれも叱りたいこれも叱っておきたいという気持ちを抑えて、まずは「これだけは、すぐに改善したほうがいい」というものをひとつに絞って、しっかりと叱ること。それ以外のことを口に出すのは、取りあえずがまんしておこう。そしてその「ひとつのこと」を反省し改善できたなら、ほめてやる。
「自分にも、できるんだ」と自信を持たせてから「次のこと」を叱ってやればいい。
【話し方のツボ】あれもこれも叱るのではなく、ひとつのことをしっかり叱ろう。
①きちんと叱るときほど、がまんが必要になる。
②自分のウサ晴らしに、人を叱らない。あくまで「その人のため」を思って叱る。
③いい過ぎない。ある程度のところで、叱るのをやめておく。
④同じことを蒸し返す叱り方はダメ。一度叱ったら、しばらくは口には出さない。
76 アドバイス型の叱り方が、「相手のため」になる
「人の迷惑を考えてよ。あなたのために周りの人たちが、どう感じているのかわかるか」といった叱り方をすれば、相手は口答えができない。だからそういう叱り方をするのだろうが、「あなただって、人の迷惑になることをたくさんしているじゃありませんか。現に私は、あなたのいい分に迷惑している。なにを偉そうに」と、反撥(はんぱつ)されるだけではないか。叱り方というのは、相手をやっつければいいというものではない。
むしろ、「こうすれば、周りの人たちは喜んでくれると思うのよ」という叱り方のほうが、相手もすなおに受け入れるだろう。
「あなたが吸うタバコが迷惑になっているのがわからないの」ではなく、「タバコを吸うときは外へいって吸ってくれれば、部屋に煙がこもらないから、周りの人たちは働きやすいと思うのよ。あなたは、どう思う?」という話し方のほうが、ずっと説得力がある。
「君が仕事が遅いから、あとの人が迷惑するじゃないか」ではなく、「いつまでに仕事を仕上げると約束して、その通りにすれば、君の仕事を評価してくれる人が増えると思うよ」のほうが、相手はやる気になってくれる。
つけ加えれば、「これをやめなさい」ではなく「こうしたほうがいい」というアドバイス型の叱り方をするのもコツである。
【話し方のツボ】相手をやっつける叱り方ではなく、提案型の叱り方をしよう。
①「やっつければいい」ではなく、生産型の「~のほうがいい」という叱り方をする。
②批判的な叱り方ではなく、提案型の「こうしたほうがいい」という叱り方をする。
③相手に恥をかかせるような叱り方ではなく、相手のやる気を導き出す叱り方をする。
④「何度も同じ失敗をすれば気がすむんだ」となるのは、叱り方がヘタだから。
77 ひとつ成長することが、ほめるに値する
私自身は、「以前に比べて、各段によくなりましたね」という、ほめ方をされたら、手放しでうれしい。「ダイエットをなさっていたとお聞きしてましたが、やせましたねえ。がんばりましたねえ」「将棋の腕、上達しましたねえ、ひそかに、腕を磨いていたんでしょう」「むかしに比べて、ずいぶん大人になったなあ。人間として立派になったなあ」「進歩したねえ。ここまでやれるようになれば、もう一人前だ」といった、ほめ方である。
自分が少しでも前進していること、成長していることをほめてもらえれば、自信も持てるし、「よし、さらにがんばってやるぞ」という意欲も生まれてくる。
もちろん人よりも飛び抜けたものがあればいいのだろうが、その人が自分なりの努力をして少しでも成長しているところがあれば、それは十分に「よくやったぞ」と、ほめるに値することだ。
それには、よく観察することが大切だ。というのも、人は植物と同じで、少しずつしか成長しない。よくよく見ておかないと、「なんだ、きのうと変わりないじゃないか」で終わる。しかし実際には、ほんの少し背を伸ばしている。
それに気づいて、ほめてやる。いいかえれば、それだけの人間観察眼がなければうまくいかない。
【話し方のツボ】「何をほめてやろう」と考えながら人とつき合ってゆくのがいい。
①「がんばっているようだが、まだまだだな」ではなく、そのがんばりを手放しでほめる。
②平均値以下だから叱るのではなく、少しでもよくなったときは大いにほめる。
③その人の欠点に気づくのが、人間観察力ではない。観察力のある人は長所に気づく。
④叱ることばかり考えているから、その人の欠点しかみえなくなる。
78 ほめ言葉も「過ぎる」と、イヤミに聞こえる
ほめ方がオーバーになっては、かえってしらじらしい。「あなたほどの美人はいませんね。どうして女優にならなかったの。女優になれば、今頃大スターになれただろうに」というのは、聞きようによっては、女優になる才覚などない、平凡な人生を生きることしかできない、現在のその女性へのイヤミにも聞こえてくる。
オーバーにほめれば、それだけ人は喜ぶというものではない。かえって鼻白むことも多い。セクハラと感じる女性だっているだろう。
オーバーなほめ方をする人は、人間観察力が足りない。相手がどんな人なのか想像することもなく、たとえば女性はみんな「美人ですねえ。お若いですねえ」といえば喜ぶものだと考えている。ここが観察力不足なのである。
人間観察力のない人のほめ言葉は、一般論に落ちる。その人ならではの個性をほめてみてはどうか。「いいネクタイですね」で終わるのではなく、「あなたのような明るい性格の方には、そういうネクタイがお似合いですよね」とか「ご自身で選ばれたんですか。いい趣味ですね」とつけ加える。ちょっとしたことだが、相手は断然うれしい。
もうひとつ、「いいですね。すばらしい」だけで終わらせてはならない。何がいいのか、どこがすばらしいのか、具体的にほめることも、相手を喜ばせるコツである。
【話し方のツボ】観察力のない人はバランスのよいほめ方ができない。
①オーバーな表現でほめるとしらじらしくなる。抑制的にほめよう。
②外見ばかりをほめるとイヤらしくなる。趣味や人柄のこともほめる。
③相手が自信を持っていることをほめる。劣等感を覚えていることをほめてはダメ。
④「美人」「かっこいい」「優秀だ」と一般論でほめるより、その人の個性をほめる。