「あしたは久しぶりに○○さんにお目にかかる。さて、どんな話をしようかしら」と、人と会うときにはあらかじめ考えておく習慣を身につけてほしいものだ。
ソニーの創業者盛田照夫氏の夫人は、パーティーへ出るときには事前に出席者の職業や経歴、家族のことなど、できるかぎり調べておくのだそうだ。いわば話のネタを仕入れておくのである。だから、
「ご主人は若い頃に、アメリカに留学なさっていたんですってねえ」「ご長男さんは来年、受験だそうですねえ」「あなた、ボランティアをなさっているんですねえ。すばらしいことと思います」
と話がはずんで、初対面の相手にも、十年来の友人のように話をすることができる。
話しベタな人というのは、「しゃべり方が流暢(りゅうちょう)ではない」「舌がまわらない」というのではなく、じつは、話のネタが少ないのである。
話すことが思いつかないから、話がはずまない。当然のことだ。テレビのコメンテーターといわれる人たちは、何かを質問されたとき、短い時間内で適切な意見を述べる。それは生まれつきの話上手だからできるのではなく、日々、
多くの情報を集めるという努力をしているからだ。
漫才や落語の師匠たちには、密かにネタ帳をつくっている人も多いという。話のプロといわれる人たちも、みなさんそれなりに話のネタづくりにがんばっているのだ。
【話し方のツボ】口ベタなのではなく話のネタが少ないだけ。
①ゆきあたりばったりで人に会うのではなく、あらかじめ何を話すか準備をしておく。
②新聞、テレビ、車内広告を持って眺め、話のネタを仕入れておこう。
③知識をひけらかされるのはごめんだが、雑学な豊富な人と話していて楽しい。
④話がワンパターンになってしまうのは、話のネタが少ないからだ。
5 息を合わせると、いい会話が始まる
初対面の相手だと、緊張感から、知らず知らずのうちに早口になってしまう人がいる。
選挙中の立候補者の演説も、たいがい早口になっているようである。そのために聞きづらくなっていることには、まったく気づいていない様子だ。これも緊張感からなのだろう。
「ちょっと緊張しているな」と思ったときは、意識的に少しゆっくりと話をするほうがよい。ゆっくり過ぎるかもしれないと思うぐらいで、相手にはちょうどよい速さで聞き取られているものだ。
話すべき内容が、頭の中でよくまとまっていない時も、つい早口になってしまう。
まとまりのなさを相手に気取られないために「勢いで押し切てしまえ」という思いからなのだろう。また引け目があって、ごまかしたい気持ちがあるときにも早口になる。その代表は、強引なセールスマン。もともと、せっかちな性格から、早口になってしまう人もいる。いずれにしても、いい印象はあたえない。
息が合う、といういい方がある。気が合う、といういい方もある。話し方のスピードが合う相手とは、息が合い、気が合い、なんだか「この人とはうまくやっていけそうだ」と思えるものだ。
【話し方のツボ】相手と話すスピードを合わせよう。それだけで話がはずむ。
①仲のいい相手とは少し早口。初対面の相手とは、ゆっくり話す。
②早口の人相手に、悠長な話し方はしない。相手をイライラさせるだけ。
③ゆっくりした話し方の人相手に、まくし立てるのはダメ。
④緊張する場面では、早口になることに注意。意識的に、ゆっくり話そう。
6 上手な嘘をつける人は、五割増しの「お世辞」に抑える
まったく嘘をつけない人がいる。これはいけない。
嘘にも、ふたつある。虚栄心や私利私欲から出る嘘。もうひとつは、相手の気持ちを励ましたりする嘘である。前者には罪があるが、後者は、いわゆる「嘘も方便」罪はない。
十年ぶりに知り合いの女性に会って「いやあ、さすがに老けましたねえ」といってしまうのは、それが真実だとしても、そのことばには罪がある。
ここは「いつまでも、お若いですねえ。むかしとちっとも変っていない」といっておくのが妥当だろう。これは人間関係を円満にするための、罪のない嘘だ。
とはいえ、「若返ったんじゃありませんか。二十歳の娘さんのように見えますよ」と、見え透いた嘘はイヤミになり、人格を疑われるかもしれぬ。どうせなら「お子さんより若いのでは?」とジョークにしてはどうか。
てはどの程度の嘘までが許されて、どのくらいの嘘は許されないのか。ある女優さんがいうには、写真を撮影されるときは、実際の自分よりも五割増しに美しく写してもらうのが一番うれしいという。それ以上きれいに撮影されてしまうと、自分でないような居心地の悪さを感じる。
お世辞という嘘も、せいぜい五割増しに抑えたいものだ。
【話し方のツボ】上手な嘘をいえる人になろう。上手な嘘は人間関係を円満にする。
①ダイエットを繰り返す人に「太ったね」はダメ。「ほっそり見えるよ」が上手な嘘
②病人に「顔色が悪いね」はダメ。「元気そうじゃない。よかったよ」が上手な嘘。
③挫折した人に「なんでうまくゆかなかったの」はダメ。「運が悪かっただけだよ」が上手な嘘
④迷惑をかけた人に「あなたのせいだ」はダメ。「だれのせいでもないよ」が上手な嘘。
7 内気な人に、「ハキハキしろよ」といってはならない
話が合わない原因のひとつに
、相手の性格に合わせた話し方ができていない、ということがある。たとえば無口な人と話をするとき。
無口な人=生(き)まじめな人というわけではないが、あまりオチャラけた話し方はしないほうがよい。軽い冗談のつもりが、そうとは受け取っていない場合がある。
「バカだなあ、君は」といったら、「ぼくの、どこがバカなんですか」と返されたのではやりにくい。こちらもまじめな、誠実な話し方を心がけるのがよい。
また、内気な性格の人に、「もっとハキハキしろよ」「いいたいことがあるんだったら、はっきりいえば」と責めるような口調で話してはならない。自分をわかってもらえないと考え、ますます口数が少なくなる。
無口で偏屈な人は、いったんいい出したら、いくら説得しても変わらない。「私、きょうはカラオケって気分じゃないの」という人を、あまり執拗(しつよう)に誘ったりしないことだ。そのうちに「しつこいこね」「なによ、せっかく誘ってあげているのに」といった口論に発展することも多い。
相手が無口だからといって、こちらも無口のままでいるのもよろしくない。長い沈黙というのは、お互いに殺気立ってくることがあるから要注意だ。
誠実に話かければ、無口な相手とも話ははずむ。
【話し方のツボ】人の性格に合わせた話し方を学べば人間関係がうまくゆく。
① 無口な人とは、うかつなひと言うで人間関係が崩れやすい。
② 内気な人には、その性格を責めるようなことをいってはいけない。
③ 偏屈な人には、むり強いするような話し方はやめる。
④ 相手が無口だからといって、こちらも無口を決め込んではならない。
8 おしゃべりな人には、繊細な一面がある
やり手の青年実業家、優秀なセールスマン、コメンテーター、政治家といった職業の人たちには、話し方にある特徴がある。よくしゃべる、能弁である、という点だ。
また陽気で、冗談をいって人を笑わせるのが好き。話すときのジェスチャーが大きく、人を楽しませて自分も楽しんでいる。
さてこのタイプには、あんがい繊細な一面があることも覚えておくほうがいい。落ち込むことなどなさそうに見えても、ちょっとしたことでひどく傷ついて、立ち直るのに時間がかかることもある。
日本人にうつ病が多いと聞けば、さもありなんと思う人は多いだろう。生まじめで責任感が強く、仕事人間が多い日本人には、たしかにうつ病を引き起こす素地がありそうだ。しかし一方で、あの陽気そうなアメリカ人にもうつ病になる人は多い。
陽気な人=落ち込まない、といった方程式など存在しない。
だから「あの人だったら、ちょっとくらい乱暴なことをいってもだいじょうぶよね」と、あまりに図に乗ったキツイことはいわないこと。人とつき合ってゆくには、相手がどんな人であれ、思いやりが大切である。また、いってはいけないことをいってしまったときは「ごめんなさい。悪気があったわけじゃないのよ」と、早めにフォローすること。「あの人だったら、気にしないだろう」と、そのまますませてはならない。
【話し方のツボ】言葉のはずみで人の心を深く傷つける。
①陽気な性格の人も、トゲのある言葉には傷つく。陽気=鈍感なのではない。
②繊細な人は、一見そうとは見えないもの。相手の心をよく見て話す。
③飲み会などの盛り上がった雰囲気では、失言が飛び出しやすいから要注意。
④自分の言葉が人の心を傷つけたと気づいたら、その場で謝る。