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button-only@2x 面と向かってほめるより、「陰ぼめ」に効果あり

ほめるなら、大勢がいる前で褒めよ、という。部下をミーティングルームに呼んで「よくがんばった」と褒めるよりも、朝礼でみんながそろっている前で褒めるほうが、その人も「期待にこたえられるよう、さらに奮闘努力しようか」と、いっそう熱くなる。

ある職場の女性社員は、上司とウマが合わない。どんなにがんばっても、ちっとも評価してくれないどころか、叱られてばかりいる。「どうせ自分は、何も期待されていないんだ」と思っていたのが、ある日、その上司である専務からこんな話を聞かされた。「彼が、あなたのことを、タフでがんばり屋さんだって褒めていたよ。もう少し経験を積んだら、大きな仕事を任せたいっていってたよ」と。この女性社員は大いに胸を打たれ、その上司への印象が一変したという。

いわば「陰ぼめ」だ。この褒め方も、なかなか効果がある。ある心理学の実験では、直接褒めるよりも陰ぼめのほうが、相手が感じるうれしさの度合いは大きかったという。

さて、褒めるのはタイミングがむずかしいともいっておく昨年度の営業成績を

「昨年は、君はよくがんばった」では、本人はうれしさ半減なのではないか。場合によっては「昨年はよかったが、今年度はどうなっているんだ。全然ダメじゃないか」というイヤミに聞こえてくる。

ほめるなら、その場で、そのときに、である。

【話し方のツボ】ほめればいいというものではない。様々なほめ方を学んでおこう。

①褒めるなら、みんなの前で。しかし、その人へのヒガミや嫉妬心が生まれないよう注意。

②褒めるなら本人に直接。しかし第三者を通しての陰ぼめも、なかなか効果的。

③褒めるタイミングを逸するべからず。時期が遅れると、ほめ言葉がイヤミになる。

④人の褒め方は、ひと通りではない。相手の性格、状況を考慮して、ほめ方を考えよう。

81 さりげない「ほめ言葉」に、相手はグッとくる

映画監督の山田洋次さんが、俳優の渥美 清(あつみ きよし)さんを初めて起用したとき、こんなことがあったそうだ。撮影を終えた渥美さんに、山田さんがひと言「いい仕事でした」と声をかけた。すると渥美さんは、にっこり笑って「あんたとは、また仕事をやりたいね」。

見事な返し技ではないか。

この「あんたとは」は最高級の褒め言葉である。山田監督の仕事を高く評価したからこそ、自然に口から出たのだろう。

ちなみに、「あなたとは仕事がやりやすい」「相談に乗ってもらいたいことがあるの」という、褒め言葉もある。いずれも相手の能力を認めていることが言外に伝わる。

さりげないいい方に威力あり。「あなたは、すごい」という直接的な褒め言葉よりも、このほうがほめられた人はうれしさがこみ上げてくるのではないか。

日本人には、褒めるにしても、褒められるにしても、こういう大げさではない褒め方のほうが性格に合っているように思う。

さて、感謝するという、ほめ方もある。「ありがとう。あなたのおかげで、とてもうまくいったわ」という、ほめ方だ。この言葉の裏には、あなたの仕事はていねいで、配慮がゆき届いているといった意味が隠れている。

期待するという、褒め方もある。「あなたはには大いに期待しているんですよ」という話し方だ。あなたは才能に恵まれている、努力家だといった褒め言葉が隠れている。

頼るという、褒め方もある。「この仕事は、あなたにしか任せられないんです」にも、あなたの技術や経験を認めている、という意味がある。

教えを乞うという、ほめ方もある。「ちょっと知恵をお借りしたいんです」といういい方だ。あなたはこの分野のエキスパートだ、この件に関しての知識はあなたに並ぶ者はいない、といっているのと同然となる。

最後に私はいいたい。「人を見たら、褒めよ」と。人を活かすために、褒める。そうすることで、じつは、あなたが活かされる。褒め言葉の返し技で、今度は相手があなたのいいところを見つけて、褒めてくれる。

お互いに、さりげなく「ほめ合う」ような話し方を心がけてみてはどうだろうか。

直接、「あなたは、すごい」とベタぼめするのではなく、いま述べたように「ありがとう」「おかげで」「うまくいった」という言葉によって、さりげなく相手をほめる。

だれかを通してほめることを「陰ぼめ」と書いたが、その伝でいえば、こちらは「隠しぼめ」といったところだ。ほんとうにいいたいことは隠したままの話し方。

日々のなんでもない会話の中で、言葉としては「あなたは大切な人です」という気持ちは表には出ていないけれども、お互いに「感じて」いる。そういう話し方を心がけているうちに、人と人との「確かなもの」が生まれてくるようにも思うのだ。

「明るい話し方」といっても、いつも陽気ではつらつと…という、はじめるような明るさだけではなく、間接照明のようなやわらかい明るさもまた、人と人とをしっかりと結びつける力を内蔵しているように思う。

— あとがき —

私なりの「人の心をつかむ」もののいい方をまとめてみたが、最後にもっとも基本的なことについて示す。

それは、「どういうか」「何をいうか」「いついうか」といった技術的なことではなく、いわば、そのときの態度や雰囲気だ。

あなたが何かをいおうとするとき、ふつう相手は、あなたを見ている。耳を傾けようとするだけでなく、あなたに目を向けているのだ。だから、「いい方」だけではなく、自分の「見せ方」も大切になってくるということ。

「面倒くさそう」「仕方なく」…そのときの顔つきや仕草から、そんな感じがただよっていたら、相手もまた、あなたの話を「面倒くさそう」に「仕方なく」聞くだけ。

反応が鈍くなるのも当然で、相手の「心をつかむ」ことなどできるはずがない。

たとえば上司が、面倒くさそうに業務命令をすれば、部下も面倒くさそうに仕事をするだけだ。そんな会社は、いつかひどいことになるだろう。

また恋愛においては、面倒くさそうに、仕方なく「告白する」…なんてことはないだろうが、もしチャンスがあったら試してごらんなさい。絶対に、いい返事はもらえない。

また、「どうせ、(あなたには)わからないだろうけど」「ああ、(私は)いま、疲れているのよ」といった心のありようが伝われば、これもうまくいかない。

人に何かを伝えたいときには、みずから「気持ちよく」ということが大切なのだろうと思う。その、心のありようが相手に伝わってこそ、相手も「気持ちよく」、きちんと目を向け、耳を傾けてくれるのだ。

もののいい方や、言葉も大切だが、そのときの態度やしぐさなど、自分の「見せ方」「見られ方」が大きく影響していることも心得ておいてほしいところだ。