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button-only@2x 「何を話そう」ではなく「何を聞こう」が大事

さほど親しくない、あるいはまったく知らない人と会うときの心配の中には、「会って、どんな話をすればいいかがわからない。つまらない話をするヤツだと思われたくない。盛り上がらなかったらどうしよう」というものもあるだろう。

まえに言った通り、心配性の人は親和欲求が強いから、親しいつき合いが始まると、心配性を相手への思いやりとして発揮できていいのだが、最初のとっかかりで、こんなふうにつまずくことがじつに多いのだ。

言うまでもなく、「相手のことをよく知らない」から心配になるわけだ。事前に調べて話題を考えるという手もあるが、前項でお話ししたように、無用の先入観を持つのはあまり得策ではない。ならば、どうすればいいか。

これもじつに簡単である。

「つき合いがない、また浅いのだから、自分が相手のことをわからないのは当然だ」と認識するだけでいい。そうすれば、ここでも心配のフォーカスは、「何を話そう」から「相手の話を聞きたい」という気持ちに移っていく。

もちろん、自分のことをどう話そうかと考えてもいいのだが、そうなると、”心配性さん”は、またまた「相手は自分の話に興味がないかもしれない」などと心配し始めるので、それより相手が自分を知りたい気持ちに委ねるほうがラクである。

そして「相手の話を聞く」と決めたら、あとは相手の話の流れに沿って、相づち代わりの感想や質問をはさみながら、ひたすら聞けばいいだけだ。

感想や質問と言っても、大げさに考えることはない。「それからどうしたんですか?」「それは知りませんでした」「すごい経験をしましたね」「お好きなんですか?」という程度の一言台詞で十分。質問項目の準備は不要である。

こういう一言があると、相手を乗せることができる。自分の話に興味を持ってくれていると思うから、相手も話に熱が入るのだ。みなさんにも経験があると思うが、相手が身を乗り出すように話を聞き、ちょっとした質問を投げかけてくれると、「つい、しゃべりすぎた」とあとで後悔するほど、興が乗ってくるのではないだろうか。

とはいうものの、話のとっかかりを上手につかむのもコツがある。日本人はどうしても会話を、お天気の話や杓子(しゃくし)定規な身上調査的な項目から始めがちだが、その場で目についたものをネタにして、会話を始めたほうが相手の気分も乗ってくる。

たとえば、高層ビルのオフィスにお邪魔したとして、こんな会話はいかがだろう。

「こんなに上から見ると、タクシーの色がカラフルでいいですねぇ」

「そうかい? 気にしたこと、なかったよ。忙しくて、外を見てる暇もないんだよ」

「そりゃ、そうだね。でも、低層ビルの住人としては、うらやましい。残業してても夜景に救われそうだ」

「まぁね。たまに、みんなで夜景を見ながら、缶ビールを飲むことはあるな」

「ビール、お好きですか?」

「嫌いじゃないが、どちらかというと焼酎党だね」

「ということは、九州のご出身?」

「いや、米どころの新潟だよ。でも新潟にだって焼酎はあるんだよ。僕の父なんて、」

もう85歳になるけど、毎晩、焼酎をしこたま飲んでるよ。焼酎好きは父譲りだね。」

「へぇ、お父さんが85歳・・でも○○さん、お若く見えますが?」

「ええ、僕は遅い子でね、まだ40だよ。一回り以上年の違う兄貴が二人いる。子供のころは同級生に、父のことを『おじいさん?』とか言われて、オヤジ、怒ってたなぁ」

「最近、帰られました?」

「三か月ほどまえにね。どうしても孫に祭りを見せたいってうるさいし、その時期にちょうど高校の同窓会が10年ぶりにあったから。うちの学校、甲子園に出たんだよ。××高校っていうの、知ってる? 僕は大学から東京に出てきたんだけど…」

こんな具合に会話が進めば、大成功ではないか。自然な流れで出身地や住居の話に持ち込むと、とたんに饒舌になる人は多い。なんとなくとっつきの悪い人でも、住んでいる場所が近いというだけで、話が盛り上がった経験は誰しもお持ちだろう。

もっとも「そんなにうまくいかないですよ」という声も聞こえてきそうだが、相手の事を知りたいという気持ちさえあれば、思いのほか難なくできる。よしんば質問が思い浮かばなくても大丈夫。

この例でいくと、あとは「ビールですか」「焼酎党ですか」「お父さん、85歳ですか」「祭りですか」「同窓会ですか」などと、相手の言葉を質問にしてオウム返しにしたり、「私は北海道の出身なんですよ」「私も焼酎党ですね」などと自分のプロフィールをちょっぴり披露するまでのこと。会話が盛り上がる接ぎ穂(つぎほ)にはなるだろう。

私はこれまで、いろいろな人と会ってきたが、たいせつなことは「あなたの話が聞きたい」という気持ちが表情や言葉に滲み出ているか否かだ。いささかテクニック的なことをお話ししたが、重要なのは気持ちであることをお忘れなく!

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▽会話に困ったときのネタを用意しておく

私が「聞き上手になりましょうよ」とお話すると、「でも、相手が無口だったら、どうすればいいんですか。自分がしゃべらなくちゃいけないでしょう。興味を持ってもらえなかったらどうすればいいですか」などとさらに心配する人がいる。

その心配、ごもっともである。何を尋ねても、返事が一言でしか返ってこないような人もいる。人見知りが激しい、つまり他人に対する警戒心が強いから、そうなるのだろう。また、口数が少ないわけではないけれど、会話をしているとふいに話題に詰まる、ということもよくある。

そんなとき、”心配性さん”は、すぐに「これはまずい。なんとかこの場を取り繕わなくては」と焦り始める。これがよくない。ソワソワ、モジモジして相手に不安感を与えたり、とっさの思いつきで無意味な話を始めて、ヒンシュクを買ったりする行動につながらないともかぎらないからだ。

こういう事態を防ぐ方法は、二つある。一つは、会話のはじめ、または会話に困ったときに披露する話のネタを、いくつか準備しておくことだ。話し始めのネタとしては、笑いを誘う「自分の失敗話」が申し分のないところだ。

というのも、私は全国各地で講演をしているので、しょっちゅう、たくさんの初対面の人を相手にしゃべっているのだが、その経験から、「自分の笑える失敗談から話を始めると、人心を掌握しやすい」と学んだからだ。

私はけっこうそそっかしいので、この種の話のネタはけっこうある。たとえば、すこしまえに私の著者のテーマを中心にしたテレビ番組に出演したとき、私はそのうちの一冊がどんな内容か司会者に問われて、一瞬思い出せず、「もう、忘れちゃった」と笑いながら話のつじつまを合わせたのだが、こういうのがネタになる。

「人間、長く生きていますと、物忘れがいいというか、覚えておくべきことがありすぎるというか…近ごろはもう年のせいで、自分が書いた本のタイトルどころか内容も忘れちゃうんです。先日、テレビに出たときに、『どんなことが書いてあるんですか?』と言われて住生しました。」

でもね。忘れちゃったんだから、『はて、忘れちゃったなぁ』と言ったら、司会者の方たちも笑ってましたね。私はは日ごろ、若いつもりでいますが、こういうときだけは年寄りになっちゃう。年をとるのもいいもんです」

という具合に、自分のドジを笑い話にすると、人様も親しみを感じて喜んでくださるし、自分自身もミスを犯したイヤナな気分から解放される。

ただ、面白い話がとっさに出てくるなんて芸当は、話し慣れないうちはそうそう簡単にできることではないだろう。やはり、「誰かに会ったときは、これを話そう」と準備しておくことが必要だ。そのためには日ごろから、誰かに伝えたい楽しい体験をしたときに、短いストーリーにまとめておくくらいのことはしたほうがいい。

”心配性さん”はとくに、相手に理解してもらいたい気持ちが強く、話を細大漏らさず伝えようとする傾向にある。そこで、ポイントは、結論から始めること、ディテールを捨てて大筋だけでストーリーを組み立てること、である。

いずれも、「これも話さなきゃ、あれも話さなきゃと話しているうちに、何を話したいのかわからなくなってきた」という事態を防ぎ、相手を自分の話に引き込むためである。要点の見えない、ただ長いだけの話は、聞く人をとても退屈させるからだ。

すぐには上手に話を組み立てられないかもしれないが、日常生活の中でちょっとしたトレーニングをすれば大丈夫、それは、人と話したり、テレビを見たり、新聞・雑誌の記事を読んだりしているときに、頭の中で「結局こういうことが言いたいんだな」と整理する習慣をつけるというものだ。「要点を300文字以内にまとめなさい」的な国語のテスト問題を解く気持ちで人の話を聞くと、自然と話を構成する能力が磨かれる。