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【コラム】– ヨイショのひとつもできるのが、立派な大人の証し? —

これは落語の世界だが、「きょうは、いい天気だなあ」とダンナがいえば、たとえ土砂降りの雨の日であっても「ほんとうに、きょうはいい天気。日向ぼっこをしたくなります」と調子を合わせた話し方ができなければならないのが、タイコモチなのだそうだ。「あの人は、タイコモチだからなあ」といえば、ゴマすりばかりで、お世辞をよくいう人のこと。あまりいい意味では使われない。

しかしタイコモチのようにヨイショのひとつもできるようにならなければ立派な大人とはいえない。状況によっては、お世辞をいい、ゴマをすることもできる。ときには長いものに巻かれることもできる。いい方をかえれば、それは仕事における必要条件ともいえる。

ただしお得意さんには必死でゴマをすり、そのストレスのはけ口として、部下には態度をガラリと変えて横柄な口のきき方をするというパターンもある。これは立場を利用した弱い者いじめ。立派な大人のすることではない。

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47 小難しい話し方に、人は集中できない

もともと私は口ベタで人前で話をするのは苦手なほうだったのだが、講演を依頼され場数を踏んでいるうちにコツがつかめてきた。ここで、いくつか紹介しておきたい。ひとつには、小むずかしい話し方はダメ。多少専門的で小むずかしい話題を取り上げることはあるが、話し方が小むずかしくなってはいけない。聞いている人を飽きさせるからだ。専門用語を使うことはできるだけ避け、わかりやすい言葉を用い、やさしく話すことが肝心。ときには話を補う図や表を用意することもある。

ところが専門用語を多用し、わざわざ小むずかしい話し方をする人もいる。聞くほうの心理としては、「ああ、あの人はわかってもらおうという気持ちがないんだな」であり、そのうち「オレはあんたたちとは違う人間だ、ワンランク上にいる人間なんだぞ」といわれているかのように感じる。これでは好感はえられない。

わかりやすい話し方をする人には、人は親しみを覚える。親しみを覚えるということは、よく話を聞いてくれるということでもある。

その分野の仲間内輪で話をするときにはいいのかもしれないが、みなさんも外部の人たちとコミュニケーションを取るさいには、聞いている人にわかりやすい話し方を心がけるほうがよい。まず、耳を傾けてもらうことの大切さを自覚してほしい。

【話し方のツボ】わかりやすく具体的に話す。親近感を持って話を聞いてもらうコツ。

①専門用語で小むずかしく話すのではなく、一般的な言葉でわかりやすく話す。

②抽象論ではなく、事例や統計、ときには図表やイラストを使って具体的に話す。

③「自分は偉い」ではなく、「私も、みなさんと同じです」という話し方。

④「教えてやる」という話し方ではなく、「いっしょに考えましょう」という話し方。

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48 話が脱線したとき、本筋に引き戻すコツ

講演をするときは、基本的に原稿は用意しない。また事前にリハーサルというか、予行演習をすることもない。予行演習をしたり原稿を用意したりすると、どうしても話し方が棒読みのようになって実感がこもらない。これも聞いている人を飽きさせる。

そこで、ぶっつけ本番で話をすることになるのだが、困ったことも起こる。

思いつくまま話を進めるために、たびたび本題から脱線してしまうのだ。

しかし多少の脱線は、ご愛嬌だと思っている。大切なのは話の「頭、つなぎ、締め」という三つのポイントを押さえることだ。

「きょうは長寿というテーマで、お話ししたいと思っています。平均寿命が年々延びておりまして」と頭に述べ、「そこでまとめてみますと、長生きするために心がけておきたいことはバランスのとれた食生活、適度な運動、生きがいを持つこと、そして…」という話をつなぎでして、「私もがんばりますから、みなさんも長生きしましょう」といって締める。このポイントさえしっかり押さえておけば、少々話が横へそれようが、まず、だいじょうぶ。

さて日常的な会話においても、話が脱線することはよくある。自分のほうから話を脱線させてしまうこともあるし、相手が関係のないことを話し出すこともある。

これも人と話をするおもしろみだとは思うが「出だし、つなぎ、締め」の要所要所で脱線した話を本題に引き戻すこと。これができれば「ムダなおしゃべりをして、意味のない時間を過ごした」と後悔することはない。

【話し方のツボ】話は「頭、つなぎ、締め」というポイントを押さえてしよう。

①脱線した話をそのままにしておくと、あとで「ムダなおしゃべりをした」と後悔する。

②たまには意図的に脱線した話をするほうが盛り上がる。

③脱線した話は「私がいいたいのは」「まとめると」「大切なのは」で本題へ引き戻す。

④「いいたいことは何か」を、いつも頭に置きながら話を進めよう。

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49 時間配分を考えていないと、めりはりのない話し方になる

前置きの長過ぎるスピーチで、うんざりさせられたことはだれにもあるのではないか。

「初めに、ひと言だけ言い訳させてもらいたいことがあるのです。私はどうも上がり症なものですから、大勢の人を前にして、話すということが苦手で、当初主催者の方からスピーチの依頼を受けたときは、辞退申し上げたのです。

しかし何でもいいから、ぜひ話してくれと強い要請を受けまして、仕方なくこうやって壇上に登らせていただいいた次第であります。お聞き苦しい点が多々あるとは存じますが、どうかご勘弁願います。こうやって、ご挨拶を述べているいまも、もう舌がもつれてまいります。というのも私は子供の頃から上がり症で…」

と延々続き、話がなかなか本題へと入っていかない。前置きだけで時間切れ、スピーチが終わってしまう人もときどき見かける。

なぜそうなってしまうかの理由は、時間配分ができていない点にある。

時間がなくて、用件を手短に話さなければならないときがある。職場での、朝一番の打ち合わせなども、すぐに自分の仕事に取りかからなければならないのだから、悠長にしてはいられない。

一方でじっくりと膝を交えて、腹の底を見せ合って話をしなければならないときもある。職場を離れて酒でも飲みながら部下の悩みを聞いてやる、といったときである。

時間があるときと時間がないときとでは、当然話し方も変わってくる。前置き、頭、つなぎ、締めという話の流れの時間配分も異なってくる。

そのことを念頭におきながら、話を組み立てていかなければならないということだ。

【話し方のツボ】時間配分を考えながら話をする習慣を持とう。

①時間があるとき、時間がないときで、話し方を変える。そのときの状況をよく考える。

②前置きはできるだけ短めに、早く本題へ話を移行させることが、聞いている人のため。

③人に語りかけるときには「いま、お話ししてもいいですか」と断ってからにしよう。

④話が長くなりそうなときは、その旨を断ってから話をしよう

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50 「なったつもり」が、話し方が上達するコツ

作家のA氏は、スピーチをするときには田中角栄になったつもりで話をするのだといっていた。これは、なかなかいい作戦だ。「だれかになったつもり」になって話をすることで、話し方が流暢になることはある。

相撲の千代大海(現・佐ノ山親方)は、師匠の千代の富士が現役だった頃とそっくりのシキリの仕方をする。意識的にやっていることなのだそうだが、そうすることで千代の富士が自分に乗り移ってくるような気がして精神的に安心する、強くなったような気持ちになれて勇気がわいてくるといっていた。似たような心理は、だれにでもあろう。

職場では、尊敬する上司に話し方が似てくるということもある。高倉健さんの映画を見終わった人は、みな健さんのような歩き方になるそうだ。

結婚をすると、妻はたいてい夫に話し方が似てくるものだ。夫が早口だと妻も早口になり、夫がおっとりした話し方をする人だと妻もそうなる。意識してそうしているのかどうかは別として、尊敬する人、憧れの人、頼りに思っている人の話し方と似た話し方をすることで、話しやすくなる。

話し方の、お手本となる人をつくっておくのも、話すのが上達するひとつのコツだ。

人前で話をするときは大統領になったつもりで、友人同士でワイワイやるときはコメディアンのだれかになったつもりで、デートのときには映画俳優になったつもりで、どうか。

【話し方のツボ】尊敬する人、憧れの人に、「なったつもり」で話をする。

①上司の話し方のマネをしてみよう。取引先の前で、うまく相手を説得できるようになる。

②親の話し方のマネをしてみよう。子育ての場で、子供をあやすのがうまくなる。

③好きな相手の話し方をマネしてみよう。心が通い合うようになる。

④有名人の話し方をマネしてみよう。知らない相手にも気軽に話しかけられる。