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button-only@2x 「好かれること」を目的にすると、自分の魅力が消えていく

この本を読んでいるあなたは、ひょっとして人からあまり好かれていないことを悩んではいないだろうか。

あるいは、もっと人から好かれたい、もっと人気者になりたい、と望んでいるのではないだろうか。

はっきりいっておこう。

「好かれよう、好かれようと思うのはおやめなさい。好かれることを目的にするのはおやめなさい」

長々と書いてきて何をいまさら、と思われるだろうが、好かれることを目的に努力しても、かならず好かれるようになるというものではない。幸か不幸か、人の心というのは、そんなに簡単なものではない。

こんなカップルを思い浮かべてほしい。知的で品がよく、性格は穏やかで、着るもののセンスもいい、どこから見ても「美女」と、わがままで口も悪く、外見はといえばくたびれた感じのさえない男。はためには、なんともデコボコの不釣り合いなカップルである。

「あんな男、どこがいいの?彼女にはもったいないじゃないか」

と、他人にはふしぎでならないかもしれないが、この女性が彼といっしょにいる理由は、

「好きだから」

である。ほかにいいようもなく、これに尽きるのである。

人がどんな相手に好意を感じ、相手のどんなところを好きになるかなど、だれにもわからない。本人にだって、「はい、私はこの人のここが好きです」と、「好きな部分」を切り抜いて取り出して見せることはなかなかむずかしいはずだ。

「やさしいから好き」「気が利くからから好き」「協調性があるから好き」「明るい性格だから好き」。そんなものは、本質的には好きな理由とはなりえない。その部分が自分に都合がよかったというだけのことではないのか。

そういう人が多くの人々から好かれるのは、それが現代の社会では都合がいいからかもしれない。

ほんとうは、好まれる理由や好まれる部分は、人の数だけある。

だから「これが上手な好かれ方」などというマニュアルなどないと思っていたほうがいい。万人に好かれる特効薬などない。だからこそ、だれもが幸福になれる可能性があるということも忘れてはならない。

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【うまくほめれば楽しく生きられる】

私の祖母は「人をおだてて乗せる」ことがとても上手だった。病院の職員に対しても叱ったり文句をいったりすることはなく、ほめて、おだてて、気持ちよく働いてもらう。それが祖父の方針だった。

だれかが仕事をうまくやれば、「いやーあなたはほんとに優秀だね」とほめ、廊下ですれ違えば、

「ご苦労、ご苦労。毎日よくやってくれてるね」とねぎらい、来院者の子どもを見れば抱き上げてお世辞をいう。

「おー、賢そうなお子さんだ」

祖父は精神科の医者だから、ほめることの効果をよく知っていたのであろう。

人間はほめられると、いい気分になれる。自分のことをよくいってくれる人には、悪い感情は抱かない。

「○○さんが、あなたのことをほめていたよ」

と人伝(ひとづて)に聞いたりすれば、自分も朗らかになれるし、自信もつくし、自分のよさを認めてくれた○○さんに好感をもつ。人の心理とはそういうものだ。

だから、人から好かれたいと思うなら、「ほめ上手」をめざしてみよう。

私自身も患者さんをほめることを心がけている。なぜなら、心の治療効果も高いからだ。

コツは、やり過ぎず、歯の浮くようなほめ言葉は避け、さりげなく、だ。

部下が仕事をうまく片付けたら、すかさず、

「お、さすがだね」

ちょっとしたミスを見つけても、いいところも探し出して、

「これはマズイけれど、こっちはいいね。キミなら次はもっとうまくできるよ」

何かを教えてもらったら、

「やっぱり△△さんは物知りですね。△△さんに聞いてよかった」という具合だ。

私の場合は、ひさしぶりにあった女性に対しては、

「いつまでも、お若いですね」

と、やる。同窓会などの昔から知り合いの女性だったら、

「もしかしたら、お孫さんより若いのでは?」

とつづける。無邪気に笑い合えるのがいい。

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【「たくましい」とは、強い人なのか無神経な人なのか】

「ほめ上手」への道は楽ではない。相手が何を喜び、何をイヤがるか、そのツボを押さえておかないと、逆効果になりかねないからである。

ある女性の話だ。

彼女ははとても美しい人なのだが、

「ほんとにおきれいね」

「スタイルがよくて、うらやましいわ」

「美人だから何を着ても似合うね」

などといわれるたびに悩んでしまうという。

「私は顔だけが取り柄なのか」

「うぬぼれていると思われているんじゃないか」

「ひょっとして要旨を武器に仕事をしていると思われているんじゃないか」

ぜいたくな悩みだといわれようとも、この女性にとっては容姿をほめられるのはけっしてうれしいことではなく、気持ちが沈んでしまうことなのだ。かといって、

「そんなことないわよ」

とでもいおうものなら、嫌味に取られかねない。

ほめたつもりの「美人」は、人にとっては悩みのタネなのである。

この女性、あるとき同僚の女性をこうほめた。

「たくましく生きていていいな。うらやましいわ」すると相手は明らかにムッとした表情で、

「私ってそんなに無神経?」と返答したそうだ。

「精神的に強い」という意味でほめたつもりなのだが、相手の解釈では〝たくましい=無神経〝ということらしいのだ。

このへんのことも頭にいれておかないと、ほめたつもりがけなしていたということにもなりかねない。

相手が喜ぶことや誇りに思っていることは、何か。よく見て、話をよく聞いて、推測しよう。

ほめ上手になる第一歩は、相手を理解することに尽きる。

固定観念やひとり合点でほめても、ほんとうにほめたことにはならないから要注意だ。