
その人は「がんばって」という言葉が大嫌いなのだという。「がんばってください」といわれると、どうにも耳障りでたまらないのだそうだ。
そろそろ昼食に行こうと誘われて、
「この仕事を片付けてからにするわ」
と断ると、
「そう、じゃあ、がんばってね」
いわれなくてもがんばってる、とかちんとくる。
子どもが学校でけんかをしてきたというと、
「あなたも大変ね、がんばってね」
親ががんばってどうする、とムッとする。
風邪をひいて医者に通っている。
「がんばってしっかり治してきてね」
がんばるよりも安静なのよ、と相手をにらみたくなる。
家を改築することになった。
「あら、いいわね、がんばってね」
何を、どう、がんばれというのだ。がんばるのは大工さんだ。もっと働いて修繕費を稼げということなのか…と、がんばるという言葉に、いらいらするという。
あるとき、この人はこう答えてみた。残業を押しつけて「じゃあ、あとはがんばってね」と帰る人に向かってひとこと、
「イヤだ」
というと、相手が一瞬、ひるんだので、
「仕事はするけど、とくにがんばらない。普通にやる」
とつけ足したところ、「…じゃあ、普通にやって」といい残して帰ったそうだ。
「がんばって」は便利な言葉である。どう励ましたらいいのかわからないが、まあ
「がんばって」といえば、とりあえず「あなたのことを気にかけていますよ」という信号を送れる。結局、自己満足の励まし言葉という一面もあるではないか。
だから、何かにつけてやたらと「がんばって」という人は頼りにならない…。
この人がそう考える理由だが、さて、あなたはどう考えるだろうか。
ちなみに、「がんばって」という言葉を使ってはいけない対象者にうつ状態の患者がいる。励ましのつもりでも、彼らには大きな精神負担になるから、気をつけたい。
【悪い噂は、自分のところで止めよう】
人の口には戸は立てられない。悪口、噂、中傷…は、あっという間に広がる。そして広まったあとでは修正も困難で、悔しい思いをした人も多いだろう。
「Bさんって、あんなことしたんだってさ」、ゆうべ居酒屋で同僚Cにしゃべったことが、翌日、ほかの人の耳にも入っている。
それで、
「ねぇねぇ、Cさんから聞いたんだけど、Bさんの話ってほんと?」などと聞かれて、ぎょっとする。
「Cのやつ、なんて口が軽いんだ」
と腹を立てるが、軽いのは自分だって同じなのである。あとは伝言ゲームよろしく、話が膨らみ、尾ひれがつき、真実がねじ曲げられ、あれよあれよという間に、Bさんはとんでもない人間に仕立てあげられてしまう。
ある人の悪口や噂や中傷を自分のところで止めることができるか。これは、「信頼される人」の条件ではないだろうか。
あるとき「棒の手紙」というのが出回ったそうである。「棒の手紙」とは何ぞや?
どうやら「不幸の手紙」を受け取った人が、横書きの「不幸」を読み違えて「棒」にしたらしい。「棒の手紙」はあちこちに送られ、これを受け取った人がまた何の疑問も感じずに「棒」と書いて送り、裾野(すその)が広がっていったということだ。
悪口、中傷、噂を広める人もまた、
「待てよ、この人は彼のことを悪くいうが、勝手にそう思っているだけじゃないのか。彼に嫉妬して、いっているだけではないのか」
という疑問を抱くことができない人である。
また、仮に噂がほんとうであったとしても、自分は聞き流して終わりにすることができない人である。
こんな人とは信頼関係が築けまい。うっかり親しくなれば私のことも詳しく知られ、それを人にぺらぺらしゃべられるのではないか、と疑ってしまう。
だが、あなたの噂や中傷が流されたとき、ひとりでもほかの人にしゃべらなかった人がいれば、その人とは信頼関係が築けるだろう。
悪口、噂、中傷、不幸の手紙、棒の手紙。そんなものは自分のところで止められる。そういう人でありたいものだ。
【口うるさい人ほど、いざというとき頼りにならない】
Dさんの上司は、じつに口やかましいという。
上司だから、あれをやれ、これをやっておけと、指示が多いのは当然なのだが、
Dさんが迷惑しているのは「先回りして口を出す」ことだ。
「これが終わったら、次にあっちをやっておこう」
と思っていた矢先に、
「おい、Dくん、それが終わったら、次はあれをやってくれ」
「さあ、書類が完成したから、コピーを取っておかなくちゃ」
と立ち上がったその瞬間、
「Dくん、書類できたか。できたら、コピー取ってくれ」
あーあ、である。
「いまやろうと思っていたのに」
とうんざりすること、毎日である。
ところがこの上司、よけいな命令が多いわりには、肝心なところが抜けている。
たとえば、何かのトラブルで困っているとき、相談するとこの上司は、
「そんなことぐらいじぶんたちで処理しろ」
と答える。
またあるときは、日ごろ口うるさいので、前もって「こういうやり方でいきます」といっておこう…と報告すると、上司は「まあ、いいんじゃないか」と答える。ところがそのとおりに進めたのだが、うまく立ち行かなくなってしまった。すると
上司は、
「そんなことぐらい自分たちで処理しろ」
と答える。
またあるときは、日ごろ口うるさいので、前もって「こういうやり方でいきます」
といっておこう…と報告すると、上司は「まあ、いいんじゃないか」と答える。
ところがそのとおりに進めたのだが、うまく立ち行かなくなってしまった。すると
上司は、
「Dくんが考えたことなんだから、彼が修正して最後までやるべきだな」
要するに、「簡単なことは命じられるが、自分が手に負えないことは部下にまかせる。それがあの上司なのだ」と、Dさんはいう。
先回りして、口出しする人には、案外このタイプが多いと思うが、どうだろうか。次はこれをすればいいと簡単に予測できるから、口を挟む。しかしそうでないことは「むずかしいから自分で考えてくれ」となる。
「まったく頼りにならない上司だ」とDさんはいう。あなたがもし、部下に口うるさい上司だったり、子どもに先回りして命じる親だったりしたら、振り返ってみてほしい。まあ、そうはいっても、それぞれ立場立場で事情はあるのだろうが、簡単なことは先回りをし、困難なことは知らん顔というのでは、あまり頼りにはならないことは確かだろう。