Pocket

button-only@2x 「脳を育てる」ちょっとひねった刺激法  

豊かな感性、論理性はここから生まれる

脳を鍛える方法で、今もっとも注目されているのが、アルファ派の利用であろう。さまざまなセミナーや研修で、しきりにアルファ派の威力が喧伝(けんでん)されているようだ。

中には、何でもかなう魔法であるかのように期待させる本もあるという。

まあ、あまり神秘的に思わず、最新の科学的研究を日常の能力向上につなげる具体的な方法と考えたほうがいいだろう。

アルファ波は、ご存じのように、脳波の一種である。

音や光、抹消神経からの電気刺激などの知覚刺激によって脳細胞が活動すると、神経細胞で電気信号が発生する

それがシナプスを経由して、他の神経細胞に次々と伝えられていく。その時、シナプスでは、活動電位パルスが発生し、ニューロンにごく微弱に電流が流れ込む。

こうした脳内の電気的活動を外から測定したものが脳波である。

脳波は、周波数によって大きく四に分けられる。

0.5~3ヘルツのデルタ(δ)波。四~六ヘルツのシータ(θ)波。7~13ヘルツのアルファ派、14~25ヘルツのベータ(β)波だ。

脳波は、意識の状態によって発生する種類が違うことがわかってきている。脳波と思考状態は密接なつながりをもっているわけだ。

 なぜアルファ派は「いいリラックス」をもたらすのか

デルタ波は、、完全に眠ってしまって意識がほとんどないときに発生する。

シータ波は、眠りと覚醒の間を行ったり来たりしているときに出る。浅い眠りやまどろみの状態である。

アルファ波、心が落ちついてリラックスしてるとき、あるいは何かに集中、没頭している場合に多く発生する。

ベータ波は、緊張しているとき、たとえば複雑な計算をしている場合などに発生する。アルファ派は、脳がリラックスしたときに特徴的に出るわけだが、目を閉じただけでもほとんどの人は脳波がアルファ波になるという。もっとも、それは持続的なものでなく、長くて10秒程度だといわれている。

アルファ波が脳のどの部位から出るかは、まだ研究段階のようだ。確定てきなのは後頭部の二箇所のポイントだといわれている。だが、、超越瞑想という、ヨガを応用した瞑想訓練を実践中の人の脳波を測定すると、後頭部だけでなく、前頭部からも強いアルファ派が検出され、その量の増大も確認されているらしい。

ひところ、悟りを開いた禅僧の脳波を測定する研究があった。たしかに、禅僧の脳波は一般人とは違うことがわかったそうだ。

だが、どうすればそうなれるかは、さっぱりわからないまま、その後の論究を聞かない。

アルファ波の研究も緒についたばかりのようである。

   「ひらめき」を司るミッドアルファ波

アルファ波は、どんな力を脳から引き出すのだろう。

一口にアルファ波といっても、周波数の低いものから高いものまでさまざまだ。脳力開発研究所所長の志賀一雅氏は、これを三種類に分類している。

スローアルファ波と呼ばれる七~八ヘルツの低い周波数の波。眠る前のぼーっとした意識のはっきりしない状態で出る事が多いという。

ファーストアルファ波と呼ばれる12~13ヘルスの高い周波数の波。緊張が高くなっているときに強く出るらしい。何かをじっと見つめ緊張が高まっているとき、難しい計算や事務処理などに没頭している、あるいは危険や緊急の問題が迫っているときなどだ。

この中間の9~11ヘルツあたりの周波数をミッドアルファ波といい、これが、ひらめきや記憶の増大に関与する波であるらしい。

ミッドアルファ波は、碁や将棋の達人が碁盤に集中している時や、科学者がひらめきを得た瞬間などに、多く検出されるという。とすれば、ミッドアルファ波は、独創性や創造性に関与する脳波であるわけだ。

たしかに、物理学の湯川秀樹博士の中間子理論は、ベッドの中で発想されたといわれる。

また、アメリカの化学者プラットバーガーの、ノーベル賞受賞の化学者を対象にした調査報告によれば、75%の化学者が、研究室で真剣に考えられているときではなく、のんびりとくつろいでいるときに、研究のヒントを得たという。

リラックス状態の脳波であるアルファ波が、ひらめきに深く関与すると推定できる。

逆に、アルファ波を自由に出せるようになれば能力が向上するという期待も、あながち否定はできない。

脳波の視点からは、次のようなことがいわれている。

真剣に問題に取り組み、ああでもないこうでもないと試行錯誤しているときの脳波はベータ波だ。しかし、この状態が長くなると、脳は混沌とするだけでいいアイデアが浮かんでこなくなる。そんなとき、音楽でも聞いて心と体をリラックスさせると、脳波はいったんスローアルファ波になる。そこでもう一度、問題を考えてみる。緊張がとれた非常にリラックスした状態で問題に向き合ったときにミッドアルファ波になり、その瞬間に発想がひらめくというわけだ。

壁にぶちあたった時は、リラックスして、何かがひらめくことを期待したほうがいい。

いつまでも緊張の連続では、脳は力を発揮できないのである。

   快感物質を出やすくする「呼び水」とは

人間の体内時計は朝方人間に有利にできており、成功者には、朝の時間を有効に使っている人が多いと前に述べた。

私は朝を比較的上機嫌で迎えられる人間であると思うが、それでも、何となく朝がつらいことがある。

だれしも同じだろう。疲れ、睡眠不足、前日のストレス、体調不良、家人の不機嫌など、朝のスタートをつまづかせる要因はさまざまにふりかかる。毎晩充実した一日を始めるのは、簡単なようで難しい。

     一日を「上機嫌」で始めよう

半面、朝は一日の中でもっともアルファ波が出やすい時間帯だという。アルファ波が、リラックスや脳の活性化に関与する脳波であるとすれば、脳からアルファ波を出す、すなわち逆に見れば脳からアルファ波が出ている状態にすることによって、快適な朝をつくりあげることも可能だろう。

つまり、アルファ波が出ている状態の脳は意欲的であり、一日にやるべきことをクリアに順序立てられ、うまくゆけば、昨日は悩んでいた難問に対する妙案がひらめくかもしれないというわけだ。

「悲しいから泣くのではない、泣くから悲しくなる」

そのためには、いくつかの工夫がいる。朝だから簡単な方法がいい。

まず、目覚めたときに思いきり伸びをするのはどうだろう。伸びをした瞬間は、ご存じのように、外界の音がいっさい耳に入ってこなくなる、いわば、精神の空白状態になる。アルファ波は、目を閉じたときにも出ると述べたが、伸びの場合も同じことが起こるわけだ。

伸びをした瞬間が快いのは、そのためだという。

目覚めたあとは散歩がいいだろう。散歩の効用は前述したが、アルファ波の研究家にいわせると、散歩途中のあいさつが、アルファ波を増大させるらしい。

はっきりと大きな声で「おはようございます」とか「いい天気ですね」と言う。ちょっと会話をかわして「すごいねぇ」「へぇ」などという感嘆符をつけると、なお効果が上がるようだ。感嘆の言葉が出る心理状態は、普通よりアルファ波よりアルファ波が出やすくなっているらしい。

睡眠不足の朝はどうするか。

どんなに寝足りなくても「ああ、よく寝た」と自分に言い聞かせる。いわゆる自己暗示をかけるとよいだろう。脳というのは不思議なもので、入ってきた情報通どおりに動く。

平たくいえば心の持ち方しだいで、脳は元気を倍加したいr、不調を増大させたりするといえる。

「悲しいから泣くのではない、泣くから悲しくなる」という表現があるが、朝「眠い、嫌だ」とぐちをこぼせば、ますます眠くなり、一日が嫌になる。「気分がいい」の一言が、脳のホルモン分泌を良好にするわけだ。