
快適に目覚め、朝時間を有効活用するためには、睡眠の質を高めることが必要である。睡眠は、ゴキブリなどの下等生物には認められない。脳を大きく発達させた高等生物だけにみられるものだ。
勉強や仕事が忙しい時は、つい眠るのが惜しいと思ってしまう。が、睡眠は、興奮した神経細胞を休ませるという重要な働きを担うと考えられている。
アインシュタインは10時間の睡眠をとっていたといわれる。フランス革命期の英雄ナポレオンは3時間しか眠らなかったとされるが、じつはこまめに居眠りをして補っていたらしい。いずれにしても、睡眠は量より質が大切だ。
脳の神経細胞は、休息状態でもなんでも何らかの働きをしているし、体のすべての機能がストップしているわけでもないからである。
たとえば、入眠するとすぐに副交感神経が働きはじめ、成長ホルモンを大量に分泌する。これによって、体の疲労回復が図られる。
また、精力の源といえる副腎皮質ホルモンが分泌される。副腎皮質ホルモンは成長ホルモンとは逆に、睡眠が長くなるにしたがって大量に分泌されるようになる。これによって翌日の活力が体内に蓄えられているのである。
睡眠促進に関係すると思われる物質は、30種類以上に及ぶといわれている。これでわかるように、睡眠中も体はいろいろな活動を行っているのだ。
ノンレム睡眠ーーー脳は「疲れをとるために働いている」
睡眠中、レム睡眠とノンレム睡眠が交互にあらわれることは、よく知られるところだ。レムとはRapid Eye Movement の頭文字で、直訳すれば休息眼球運動。
文字通り、レム睡眠中は、閉じたまぶたの下で眼球が激しく動いており、眠りは浅い。深い眠りはノンレム期に訪れるもので、このときは眼球の動きは見られない。
レム睡眠とノンレム睡眠とはワンセットになっており、約90分のセットが一晩に四~六回繰り返されている。ちなみに、夢をみるのは多くの場合レム睡眠のときだ。
夢は、心の奥底に隠れている無意識が意識レベルに上がってきたものであるとか、覚醒時に得た多くの情報を整理する役割を果たしているともいわれている。また、ノンレム睡眠によって体を休め、レム睡眠によって精神を休めているとする説もある。
睡眠の真の役割についても、さまざまな試論である段階だが、たとえば徹夜を続けると集中力や思考力がガクンと落ちて、体内時計も乱れてしまうことを思い起こせば、脳にとってきわめて重要な機能であることは間違いない。
目覚ましの針をすこしずらすだけでスキッと起きられる
では、質のよい眠りを得るにはどうしたらいいのだろう。月並みではあるが、規則正しく定時に床に就き、定時に起床するのが一番である。なかなか寝つけない、睡眠時間はとっているのに寝たきがしない、心身の疲れがとれてない、というのは、ほとんどの場合、不規則な生活に原因がある。
深夜の二時、三時までビデオを見た翌日は朝寝し、次の日は夜明けまで飲み屋をハシゴする、そんなことは、せっかくの睡眠も疲労回復につながらない。
一日の疲れを癒し、明日の活力を蓄えることができて、はじめてよい眠りといえるのである。それは睡眠時間の長さに比例するとはかぎらない。六時間ほどで充分なのか、九時間キープしたいのか、個人差は当然あるはずだから、自分が納得できる睡眠時間把握しておくことが大切である。
そのさい、レム睡眠とノンレム睡眠のワンセットにあたる90分を一つの基準に考えてみるといいだろう。六時間なら90分のセットが四回、九時間だと六回である。
このセットの終盤、レム睡眠の浅い眠りで夢を見ているところで目覚まし時計が鳴るようにしておけば、すっきり快適な朝を迎えることができるはずだ。
間違ってもノンレム睡眠の最中に目覚ましを鳴らすようなことはしてはいけない。
せっかくの深い眠りを妨げられて、目覚めの悪さを一日中ひきずるはめになるからである。
ただし、90分のワンセット二回の3時間睡眠で、日中をより長く活用しようというのは、早計であるといわざるをえない。
前述のように、睡眠中も体は疲労回復と活力補給のために活発に働いている。興奮した神経細胞をクールダウンさせ、副腎皮質ホルモンなどを分泌して、明日の鋭気を養っている。これらの作業が充分行なえるくらいの、適度な長さの睡眠が必要である。ナポレオンも、居眠り中にしばしば落馬したという逸話を残しているのである。
ちなみに、アインシュタインやナポレオンは別格として、われわれ凡人の場合、10時間以上眠るロングスリーパーも、四時間以下しか眠らないショートスリーパーも、両方死亡率が高いという統計がある。
どうやら、6~8時間くらいの睡眠が一般的にいいようだ。むろん個人差はあるが。